第49話

「なんだかお元気なさげですね」


 昼休憩、カップラーメンを啜っていると隣から声をかけられる。

 顔を向けると玉子焼きをお箸でつまむ遠峰さん。


「そうかな?仕事の疲れかな」


 あぁ、昼休みに食べるカップ麺ってどうしてこんなに罪な味美味しいがするんだろうか。


「あれですか、白帆先輩がお休みだからですか?この前またおんぶして駅走ってましたもんね」


「ゔっ!」


 危ない、謎肉を喉に詰まらせるところだった。まさかあれ見られていたのか。


「な、何の話でしょう」


「動揺すると丁寧語になるの面白いのでやめてください」


 この子、ほんとに最近入ってきたんだよな……?

 聞くところによると、他の課の人とも仲良くしてるらしいし、俺の威厳が砕け散るのも時間の問題か。


「どこまで行っても私は先輩の後輩ですよ」


 今度はたこさんウィンナーを口に放り込みながら、遠峰さんは嘯く。


「え、最近の女の子って人の頭の中見れるの?」


「先輩が分かりやすそうな顔してるだけですって」


 頭と喉を冷やすために麦茶を飲む。

 そんなに表情が動く方でもないんだが。


「それで」


 ぱくぱくっと箸と口を動かして彼女は話し出す。


「白帆先輩がいないからですか?」


「そんなわけないって」


「ほら、ちゃんとこっち向いて言ってください。」


 なんでこの子こんなに強気なの。

 通りかかった同僚の肩を掴んでこちらに引き寄せる。


「なぁ、遠峰さんに虐められてるんだけど」


 彼はこちらを振り向くとにんまりとして、遠峰さんに声をかける。


「もっとやってくれ。こいつ最近白帆さんと仲良くしてて羨ましいからお灸を据えないとな」


「仲良くしてねぇし、論理がばがばじゃねぇか」


「この前深夜の駅に2人でいたのに〜?」


 こら、小さい声で爆弾を投下するんじゃないよ。幸い同僚には聞こえてないみたいだが。


「実際、白帆ちゃんがいなくて俺は寂しいぞ。持ってる仕事を一通り片付けて3日くらい休むらしいからな。もうこの前の仕事は納品待ちらしいし」


 どうしてこいつは隣の課の後輩の予定をそこまで把握してるんだ、ちょっと怖い。


「実家とか帰ってるんですかね〜」


 お弁当の箱をパチッと閉めて、今度はコーヒーを飲み出した遠峰さん。

 もう完全にうちの課に馴染んでるな。


「あれ、白帆ちゃんの実家って遠いの?」


「ここから電車で1時間ちょっとだった気がしますけど、学生時代も帰る時はガッツリ帰ってましたからね〜誰かに会ってるんでしょうか」


 こっち見て言わないで遠峰さん。

 実家に帰ってるのは知ってるんだよ。今だってほら、鞄の中のスマホが震えてるんだから。

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