第48話
位置情報アプリに従ってなんとか居酒屋へと到着する。
店の中には白帆と柚木さん……だっけかが座っていた。
「こんばんは、そこのバカ引き取りにきました」
バッと音を立ててこちらを振り向く柚木さん。
「先輩さん……ですよね!ありがとうございます。まだこの子起きなくて」
彼女が指差す先には腕を枕にして寝息を立てる白帆。
とりあえず代金をまとめて支払って外へ。
「ごめんなさい、お金お返ししますね」
財布を取り出す柚木さん。
白帆が常識外れだからか、彼女がとてもまともに見える。
「いいよいいよ、こいつに払わせるから。迷惑代ってことで」
そのまま白帆を背負って夜道を進む。まさか前におぶったことがこんなところで生きてくるとは。
「羊ちゃんの彼氏さんなんですよね……?」
一瞬反応できなかった。そうか、こいつ羊って名前だったな。
「いや、違うよ。ただの会社の先輩」
目を見開く柚木さん。
「え、じゃあどうして」
どうしてなんだろうか。
改めて聞かれると中々答えが口から出てこない。
「うーん……」
肩にかかる重みに意識を向ける。こんなに揺らしても起きないのかこいつは。
明日休みだからって飲みすぎだろ。
「なんかほっとけないんだよな」
大した答えは出せないまま、柚木さんをタクシーに押し込んだ。
とりあえず、と1万円を握らせる。
彼女の住所を聞くのは本意ではない。
さっさと離れて手を振る。あ、もしものために連絡先でも聞いとけばよかったか。
柚木さんを乗せたタクシーが角を曲がったのを見届けて、肩口の白帆にでこぴんする。
「お前起きてるだろ」
「うっ……なんのことでしょう、今ので起きましたけど」
ぎゅっとしがみつくと、彼女は頬を膨らませた。
「柚木ちゃんと楽しそうでしたね〜〜!」
「お前が呼ばなければ会いもしなかったがな」
彼女を背負い直すと再びタクシーを探す。
この時間は激戦、終電を逃した哀れな羊たちが駅前のロータリーに群がっていた。
俺はそれこそ羊を背負ってる訳だが……。なんでこいつ自分で歩かないんだ。
「せんぱい、あそこにフリーのタクシーが!ダッシュ!」
覚えてろよ。
1週間の労働に疲れた身体に鞭打って歩幅を大きくする。
「わーはやい!」
なんとか争奪戦に勝利、自動で開いたドアに白帆を押し込んで俺も座席に雪崩込む。
住所を伝えて呼吸を整える。
やがてタクシーは音を立てずに寝静まった郊外を滑り出した。
淡く光った街の電灯に照らされた白帆の手が俺の袖を握ってるのは、見えないふりをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます