第46話

 秋津さんに連れられて会場を歩いていく。やけに歩くのが早い気がする。


(すんごい綺麗な方ですね)


 耳元で白帆がこしょこしょと囁く。

 そうだなぁと頷くと、腕をつねられる。


(そこは白帆のほうがって言うところでしょ!)


(めちゃくちゃじゃねぇか)


 やがて秋津さんは1つの扉の前でノックする。


「はーい、開いてるぞ」


 中から男性の声がしたかとおもうと、秋津さんは勢いよく扉を開けた。


「お客様お連れしたわよ!」


 男性は慌ててこちらへと飛び出してくる。


「申し訳ございません、お客様がいらっしゃるとは」


 男性は秋津さんの頭へ手刀を落としている。


「おいこら、時間までまだあるだろうが。突然会場見に行くとか言って飛び出したかと思えば」


「あでゃっ」


 彼は居住まいを正すと、丁寧に腰を折って名刺を差し出す。今どこから出したんだこの名刺。


「私、鹿見と申します。本日は遠いところまで足をお運びいただきありがとうございます。」


 挨拶もそこそこに、早速打ち合わせへ入る。

 よく見ると会議室には、先程のクッションのような椅子が配置されていた。


「せっかくなので我が社の商品を知ってもらおうと思いまして!」


 ぼふん、と秋津さんは席に座る。座り方が白帆と似てるんだよなぁ。


「それでは今回の雑誌のコンセプトなんですが……」


 仕事モードになった白帆が話し始める。


ーーーーー


 打ち合わせは盛り上がってなんだかんだいい時間。


「今日はありがとうございました」


 来る前とは違って清々しい気分でお礼を言う。会議はこうあるべき、うちの人間にも聞かせたい。


 白帆と秋津さんが好きに話して、俺と鹿見さんが軌道修正する流れは意外にもスムーズに行って。


 会場を後にする際、鹿見さんとは固い握手を交わしてしまった。わかりますよ、その気持ち……という思いを込めて。


「なんか先輩、鹿見さんと仲良くなってませんでした?」


 彼女のローファーがアスファルトを蹴る。


「こう、なんか親近感があってな」


 また打ち合わせで会うこともあるだろう、楽しみにしておこう。


「それで先輩、晩ご飯どうします?」


「わかってて聞いてるだろ、ラーメンな。俺の奢りで」


「わーい!この辺のお店あんまり知らないので……」


 そうだなぁ、調べるか。


 ポケットからスマホを取り出そうとしたところを手で制止される。


「せっかくなのでお散歩がてらお店開拓しましょ!」


 そう言うと彼女は俺よりも半歩、前へと進んだ。




◎◎◎

私のわがままに付き合っていただきありがとうございました!

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