第43話
「おはようございます!」
会社の自席でPCのにらめっこしていると、元気な挨拶が聞こえた。遠峰さんだ。
「先輩って白帆先輩と一緒に出勤してるんですか?」
遠峰さんからすると先輩の後輩は先輩って分かりにくいな。話す分にはなんの問題もないんだが。
現実逃避はここまでにして、くそ、見られてたか。
「偶然駅で会ったんだよ。知らない仲じゃないしな」
「へぇ〜〜〜」
にこにこと鞄を置くと、彼女も椅子に腰掛ける。
始業まで時間がある、コーヒーでも買いに行くか。
「俺コーヒー買うけど何かいる?」
「いえ!……私も行きます!」
まだちゃんとスーツで出勤する社会人の模範な後輩を連れ立ってエレベーターホールに向かう。
総務課の人間はコーヒーをよく飲むから、もういっそ部屋に自販機置いてくれねぇかな。
ガコンッと小さな缶が鉄の塊から吐き出される。
技術が発達した現代でも、取り出すためには身をかがめなければならない。
「遠峰さんはどれにするよ」
「うーん、朝ですし、これで!」
指差したのはコーンポタージュ。これって冬以外で飲む人いるんだ。
個人的には中の粒が最後に溜まって悲しい気持ちになるんだよなぁ。
彼女が財布から小銭を取り出す前にさっさと買ってしまう。
「え、自分で出すのに……」
「まぁ早く出勤したご褒美ということで、あと今日頑張らなきゃでしょ」
そう、彼女は今日企画課と打ち合わせなのだ。しかも俺抜きで。
とはいえ同僚にヘルプを頼んでおいたからそうそう変なことは起こらないだろう。あいつ普段の言動は置いといて、仕事だと信頼できるし。
「なんでこんな大事な時に先輩はいないんですか……」
「日帰り出張だからな。誰かさんに仕組まれたせいで」
前回海で撮影した成果がよかったためか、はたまたお守りとして認識されているのか、企画課と総務課の課長達は俺と白帆の組み合わせで仕事をセッティングすることが多い。
「今日ばかりは白帆先輩を恨みます」
「いけいけ、今度ご飯でも集ってやれ。あいつ稼いでるし」
2人で総務課に戻るのと、白帆が部屋に入ってくるのは同時だった。
「あら、先輩に遠峰ちゃん」
「白帆先輩、今日先輩を連れ出した罪は重いですよ……!」
遠峰さんは白帆に詰め寄って抗議しているが、白帆は白帆で遠峰さんを抱きとめて撫でている。
ほんとに仲良かったんだなこの2人。
「ごめんって〜今度ご飯でもご馳走するから〜!」
集るまでもなかったな。
でもやっぱり遠峰さんには俺抜きで頑張ってもらわねば。
「んで、お前は何しに来たんだ。まだ行くのには早いよな?」
「総務の課長に『今日は1日先輩をお借りします』って挨拶しに来ました!」
「やめろよ恥ずかしい」
遠峰さんを抱きかかえた白帆はそのまま総務部屋に入ると、一直線に課長席を目指して歩いていった。
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