第42話
『今あの美容院の前通り過ぎました』
くぴっとお酒を飲むと、彼女は帰り道を実況する。
足がアスファルトを蹴る音、布の擦れる音が遠くから聞こえる。
「全然進んでねぇじゃねぇか」
『せっかくお話してるんです、ゆっくり帰りますね!』
そういうことなら。
缶を振って中身がないことを確認すると、次を取りに1度部屋の中に入る。
「今日寒くないか」
ベランダと部屋の気温の違いに驚いて、思わず口にする。
『そうですね〜もうそろそろ秋ですかね』
何の気なしに呟いた言葉も、返ってくるなら寂しくない。
『あ、先輩先輩、近くの公園で秋にお祭りやってるの知ってます?』
「あー、やってることだけ知ってる。行ったことはないけどな。」
浴衣行き交う帰り道を1人スーツで歩く時の虚しさったらないからな。
「お前行ったことあるの」
『それがですね…………ないんですよ!』
「俺と一緒じゃん。今の溜める必要なかったろ」
『せっかく会話を楽しくしてるのに!せんぱいはこれだから……』
こいつ酔ってるのか。それか会社で何かあったか。
俺のことをストレス発散のサンドバッグだと勘違いしている節がある。
「でもいいよな〜夏のじめっとした空気の祭りも楽しいだろうけど、秋の涼しい祭りって」
『特別感ありますよね』
ビールを飲んでいるからか、口がお祭りで売ってるものを欲してきた。
カップ焼きそばのストックってあったっけな。
『それで提案なんですが……』
「いいぞ」
『えっ?』
「だからいいって言ったんだ。行こうぜ一緒に」
人間の三大欲求のうちの1つ、食欲の前ではめんどくささなんてものは意味をなさない。
『なんで私の言うことわかったんですか』
「んー、思考回路を読めるようになってきたからかな」
『私の努力の賜物ですね!』
「んなわけあるか」
どちらかと言うとこいつによる被害だろ。
結構時間経ったが、まだ白帆は家に着かないんだろうか。
「今どの辺だ」
『あと1回曲がったらマンションです』
「もうすぐか、それじゃ電話切るぞ」
電話はかけるのも切るのも苦手だ。どちらもタイミングが掴めない。
『ねぇ先輩、こうやって』
心なしか声が近い気がする。まるで近くに彼女が座っているかのようで。
『こうやってお話できたらですね』
いつもより真剣で、ちょっと恥ずかしそうな声に心臓が跳ねる。
声色だけで感情がわかるだなんて、それはもう。
『寝る時に、今日はいい日だったなって思うわけです。それでは!』
言い切るのと電話が切れるのはほぼ同時だった。
早くなった鼓動はアルコールのせいにして、俺は部屋へと足を向けた。
◎◎◎
こんにちは、七転です。
いかがお過ごしでしょうか。
今日は金曜日、なんとか一日耐えましょう。
本格的に中と外の気温差が激しい季節になりましたね。皆さん、体調にはお気を付けてください。
会話多めにしてみたんですがいかがでしょう。地の文書くのも好きなんですけど……!
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