第41話

 月曜日夜。

 終わりの始まり、絶望、地獄、呼び方は沢山あるが、なんとか週初めを乗り越えた社畜たちの気持ちは同じだろう。


 あの飲み会から1週間と少し、俺が白帆と会うことはなかった。

 精神衛生上、良いと言えば良いんだが……。


 カラカラカラ、缶ビールを持ってベランダに出る。

 夏の蒸し暑さはどこへ行ったのか、涼しい風が吹いていた。


 ぼんやりと空を眺めながらアルミ缶を口にする。


「はぁ〜〜〜」


 やはり1口目が1番美味しい。仕事や恋愛、人生におけるありとあらゆることもそうなのかもしれない。


 不意に小さなテーブルに置いたスマホが震える。誰だこんな時間に電話をかけてくるのは。

 どうか仕事の電話じゃありませんように、と祈りながらスマホを持ち上げる。


 画面に表示されたのは「羊ちゃん」

 ひつじちゃん……?


「もしもし、」


 とりあえず通話ボタンを押して小さくひんやりとした鉄の箱に話しかける。


『あ、出てくれた!』


 毎日話していた頃からすると久々な気がする、白帆の声だった。

 直接聞くのと比べて少し幼い声。


「お前の番号入れた覚えないんだが」


『この前飲み会の帰りに入れてくれたじゃないですか〜忘れたんですか!というか、誰かわからなかったのに声だけで私ってわかったんですね!』


 テンション高いな。


 あれか……酔った白帆を彼女の家に押し込んだ時、どさくさに紛れて交換させられたっけ。


 チャットのIDを教えると面倒だからって何とか言いくるめて携帯の番号にしたんだった。


「んでなんだ、ちゃんって」


って読むんです〜!』


「あれってそう読むんだ」


『え……今更……?』


「うそうそ、ごめん。ちょっと出来心で」


 からかうのが楽しくて軽口を叩いてしまう。

 気が付かないうちに口の端が持ち上がっている。


『もし目の前にいたら先輩なんてこうですよ!』


 電話の奥でシュッシュっと音が聞こえる。


「ちょっと見えないから何してるのか全然わからん」


 こういうところだよな。


『それはそうと先輩は今ベランダにいますね?』


「……ノーコメントで」


 なんで分かるんだ。

 本格的にこのベランダに監視カメラが隠されていないか探す必要があるな。


『私にかかればお見通しなんですよ!それでですね、私今最寄り出たところなんですよ』


 何となくめんどくさいことが起こる気がする。


「迎えには行かないぞ」


『何も言ってないですって!私今からコンビニでお酒買うので、このまま電話繋いでてください』

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