第38話

「お前そんな酒飲むんだな、いつもビールとかなのに」


 3人で軽くグラスを合わせる……俺のはジョッキだが。


「私だって本当は生ビールとか飲みたいですけど、頼んだらおじさん達が沸くから……」


 気持ちはわからんでもない。こんな若くてかわいらしい子が生ビールなんて頼もうもんなら寄って集って絡みに行くだろう。


「ここなら飲めるだろ」


「そこまで言うならせんぱいのくださいよ〜」


 手が伸びてくるのではたき落とす。


「こら」


「うぇ〜なんで〜こっちに呼んだの先輩なのに〜!」


 えぐえぐと泣き真似をするが、途中でこっちをちらちら見てんのバレてんだよな。


「遠峰ちゃん、ひどくない?」


「でも私にはいつも優しいですよ?先輩」


「うわ、傷ついた〜!私だって先輩だぞ!」


 めんどくさい絡み方してやんなよ。

 遠峰さんはそれでも優しく笑っている。


「こうしてると学生時代のこと思い出します。昔は白帆先輩、他の男の人をバッサバッサと切り捨てるタイプだったんですよ」


 今までの言動を振り返る……え、まじ?

 こんなにベタベタ来るのに?


「先輩、そんな目で見ないでください。過去の過ちですよ」


 彼女は俺のジョッキを一掴みするとぐいっと喉に流し込む。


「あ、俺の……」


「先輩の物は私の物です」


 仕方ない、もう1回頼むか。せっかくだし普段飲まない種類のお酒にしようかな。


「遠峰さ〜ん!」


 遠くの席から遠峰さんにお呼びがかかる。


「あいつ、結構酔ってんな」


 同僚が顔を赤くしてこちらに手を振っている。

 テーブルには別の課の同期が見えた。


 挨拶回りをしたとはいえ、まだ仕事以外で話したこともないだろう。

 毎年新卒が入ってくるわけでもないのだ。新顔は可愛がられる。実際俺もそうだし。


「行っておいで、せっかくだから他の人とも仲良くなった方がいいし」


「それでは、失礼します!また後で!」


 しゅたっと立ち上がった遠峰さんは足早に同僚のテーブルへと近づいて行く。意外と酒豪だったりするのだろうか。


「遠峰ちゃんも大変だなぁ〜、変な人に目付けられないようにしなきゃ」


「お前も先輩してんだな」


 思わずしみじみと呟いてしまう。

 後輩が先輩しているところを見ると、なんというかむず痒い。


「先輩は私にもっと優しくした方がいいと思う」


「してるしてる。ほら、向こうで絡まれてたからこっち呼んだじゃん」


「ずる〜く遠峰ちゃん使ってね!自分で来てくれたらいいのに!」


 白帆はいじいじと軟骨の唐揚げに手をつける。


「俺が突然お前を連れ出したらそれこそ問題だろうが」


「私的には全然ありありのありなのに〜」


 そう言うと彼女は、新しく注文したビールのジョッキに口をつけた。


 

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