第30話
週も明けて月曜日。
俺は今自分の席でPCの電源を入れている。
先週は突然海に連れていかれ嵐に見舞われ、後輩と一晩同じ部屋に泊まるという災難な1週間だった。
2日目の撮影の時やたらとマネージャーさんに絡まれて、結局連絡先まで交換させられたし。しかも社用じゃなくてプライベートの。
何だったんだあれは。
「うぃ〜す出張おつかれぃ!」
部署の同僚が出勤、肩を揺らしながら絡んでくる。うぜぇ。
「おはよう、ほんと災難だったわ」
「いいじゃねぇか、あの白帆ちゃんとだろ?お前普段絡みないんだから仲良くなっとけよ」
「もう当分は白帆と話さなくていいわ……」
あのテンションに着いていけないのが半分、気恥しさが半分。
本人にはぜっったい伝えないが。
「そうかー?あんなにかわいい子なら毎日でも話したいがな」
「なら次もし来た時は頼んだ」
始業の時間、さっさと出張の報告を上げておく。こういうのは後になればなるほど作業量増えるからな……主に思い出すという。
やりきった顔でいつも通りの仕事に戻ると、平常心が戻ってくる。まるで押し寄せた波が返すみたいに。
冷房をつけてはいるものの、廊下も涼しいため個室のドアはどこの部署も開いている。
普通は、というか俺もだが他の課に用事がある時は、入口近くに座ってる人に聞こえるくらいの音量で、「すみませ〜ん」と声を出すか、開いたドアをノックするもんだ。
キーボードを叩く音と紙を捲る音が支配する数十分、沈黙を破ったのは来訪者だった。
彼女は開いているドアをノックもせず俺の後ろに陣取ると、顔を俺の肩からにゅっと出す。
「せーんぱい、先週はありがとうございました」
「おつかれ、声掛けてから入ってこい」
申請の途中だったから俺はPCから目を外さずに応える。
「課長とアイコンタクトしたので大丈夫です!」
前も思ったが、こいつはいつ他の部署の人間と仲良くなっているんだ。
俺もその1人か、と考えると心に鈍い重りを落とされた気がする。
「そういやお前と毎日でも話したいって奴いたから呼んでくるわ」
立ち上がろうとすると、手で肩を抑えられる。
うわ、力強っ。
「私はせんぱいと話しに来たんですよ」
「喋ることねぇだろ、帰れ帰れ」
「いいんですか?そんなこと言って。私には切り札があるんですよ」
スっと差し出されたスマホを見ると、白帆の腰に手を回しながら寝る俺の姿が映し出されていた。
「お前、やりやがったな……!」
「へへっ、深夜に目が覚めた私を褒めてあげたい」
「消してくれよその写真」
スマホは彼女のポケットへと消えていく。
「いやで〜す!こんな美味しいネタ、てばなすわけないじゃないですか!……あ、お寿司食べたいな」
自由か。
寿司か……確かに最近食べてないな。今日帰りに回転寿司一人で行こうかな。
あそこ酒も安いし無限に食べられるから昔はよく行ってたんだよなぁ。
「ところで先輩、今日は残業ありそうですか?」
時間をモニターの右下に映る時間を見ると11時、このペースなら残らなくてもよさそうだ。
「や、今日は定時で帰るかな」
「そっかそっか〜!了解です!」
来た時よりも上機嫌な彼女はドアの方へと戻っていく。ほんとにそれだけ聞きに来たのか。
あ、こいつと話したいって言ってた同僚呼ぶの忘れてた。
白帆はこちらを振り返ると少し大きな声で言葉を放つ。
「ではせんぱい、今日もまたベランダで!」
◎◎◎
こんにちは、七転です。
なんやかんや30話まで来てしまいました。これも皆さまが読んでくださってるおかげです。
この場をお借りして感謝を。
ありがとうございます。
終わりな感じだしてますが終わらない……と思います。私のやる気次第ですね。
失踪はしない予定なのでご安心ください。細く長く続けていきます。
♡も☆もコメントも、全部全部大切に通知欄で拝見しております。いただいた評価は私の宝物です。
ランキングとかあんまり気にしないんですが、沢山の人に読んでもらえるのはほんとありがたい話だなと。
これから暑くなってくるので、皆さまどうぞ体調にはお気をつけください。
ではまた!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます