第26話

 このホテルに入った時と同じように、腕をがっちりホールドされたままエレベーターで下へ向かう。


「何食べましょ!お土産を現地で食べちゃうのもいいですね」


 呑気に話しかけてくるが、こいつ状況分かってんのか?


「やめろくっつくな」


「ほれほれ〜いつもはベランダ越しの風呂上がり白帆ちゃんですよ〜」


 同じジャンプーを使っているはずなのに、隣から甘さをぎゅっと詰めたような匂いがする。どうなってんだ。


「こんなところ誰かに見られてみろ、都合悪いだろ」


「べっつに〜?会社の人いませんし!」


 既にいつもベランダで飲むモードに入った彼女をひっぺがしながらエレベーターのドアを抜ける。


 ひたひたと絨毯の感触を楽しみながら廊下を練り歩く。

 独特の静けさ、当然ながら家では見ることの無い内装、仕事だとはいえ旅行に来た感じがしていいな。


「これが仕事じゃなければな……」


 思わず口をついて言葉が漏れる。

 まずい、隣に白帆がいるのを忘れていた。


「ですよねですよね!今度は2で旅行行きましょうね」


 腕を組みながらうんうん笑う彼女は、撮影の時とは違って年相応に見える。

 仕事の時はもっと目がキリッとしてハキハキ喋るんだが、俺の前でもそうであってくれ。


 突き当たりに売店が見えてくる。

 よかった、まだ開いてたか。


 廊下の柔らかい雰囲気とは打って変わって、蛍光灯がこうこうと光を放っている。


「どれにします?先輩。私お風呂入ったらお腹空いちゃったのでがっつり食べたいんですけど」


「確かに腹減ったな。カップ麺とかいっとくか?」


「それじゃあ普段のお家と変わらないじゃないですか!」


 とてっと棚に近付いて彼女が指差したのは、「地酒のおつまみに!」と書かれたお土産セットだった。


「今から飲むの厳しくね?」


「何言ってんですか!旅行ですよ旅行!しかも明日はそんなに朝早くない!」


 さりげなくおつまみセットを買い物カゴに入れてやがる。

 酒飲むのもいつもと変わらんだろうが。


「あれ、朝イチじゃなかったっけ?お前いつの間に明日の時間調整したんだよ」


「先輩がお風呂入ってる間にマネージャーさんとちゃちゃっと!快く昼前からでOKもらいました!」


「何してんだと言いたいところだが、正直ナイスだ。俺も疲れたし……明日金曜だもんな」


 悪ノリで俺もつまみになりそうな商品をカゴに入れる。


「あれ、白帆さん?それと……」


 やいのやいのとお酒とおつまみを選んでいたところで声がかかる。あれ、どこかで聞いた声……。


 恐る恐る顔を向けると、そこには大量の缶チューハイの入ったカゴを持ったマネージャーさんが立っていた。

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