第25話
ザーッという音を聞きながら俺はソファで項垂れていた。
結論から言うとやはり後輩には勝てなかった。
くそ、こういう危ない橋は渡りたくないんだよ
今は彼女がシャワーを浴びている。
その間に晩ご飯を調達しようかと聞いたが、一緒に買いに行くから待てとのこと。
手持ち無沙汰でついついスマホを見てしまう。明日の天気は晴れ、よかった。
なんとか撮影も終わるだろう。
「せんぱーい、バスタオル取ってくださーい」
なんで風呂場に持って行ってないんだよ。
「えぇ……俺外いるから自分で取れよ」
「いいからいいから!風邪ひいちゃう!」
渋々ベッドに置かれているバスタオルを風呂場へ持っていく。
「んじゃここ置いとくからな」
「ありがとうございます!」
先程までの籠った声とは打って変わって彼女の声が明瞭に聞こえる。
「おいドアを開けるな危ない。事故るだろうが」
「うっかり見ちゃっても気にしませんよ?」
浴室から白くて細い腕が伸びてくる。
この板1枚挟んだ反対側には……と考えると、ますます同じ部屋にいることの後悔が押し寄せてくる。
そういえばこの前白帆に絡んでいた営業課の何某君だったら、この状況も楽しめるんだろうか。
窓を閉め切ったままだと風呂の蒸気も相まって部屋に湿度が充満している。
ガラッと外へと続く窓を開ける。
いつもと違う景色、晴れた朝なら綺麗な海が見えたんだろうが、今は闇に包まれている。
「気分転換でもするかぁ」
何も持たずに外へ出る。
いつものベランダは郊外とはいえ街の光が飛び交っているが、ここは海。
柔らかな月が水面に浮かんでいる。
海の匂いと風呂から吹き抜ける甘いシャンプーの香りがちょうど俺の位置で混ざる。
「せーんぱい!」
嬉しそうな声と共に背中から手が回された。
柔らかい感触に体温が上がる。
「やめろ暑い、というか早くね?」
「今のうちに私の匂いを付けとこっかな〜って。こんないい機会ないし」
振り返るとホテルの部屋着を纏った白帆がにまにまと笑っていた。
「既によろしくない状況なんだから大人しくしててくれ……頼む……」
「はーい!」
元気に返事したかと思えば、彼女はそのままベッドにダイブする。
何歳なんだ。
「子どもか!」
「ちゃんと大人ですよ」
服の隙間から覗いた引き締まったお腹は昼間に見た砂浜より真っ白で。
湿った髪の残り香が、さっきまで自分の背中にあった感触が、否が応でも場違いな距離感を思い出させる。
夏は夜。
どうにも非日常的な空気が俺たちを支配する。
くぅ〜〜っとかわいい音が彼女のお腹から聞こえた。どうやら非日常はここまでらしい。
安堵と寂しさを同時に覚えながら、俺は口火を着る。
「じゃあ飯、買いに行くか」
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