第17話
「んで、何買うんだ」
あれよあれよとショッピングモールに連れ込まれて俺たちはエスカレーターに乗っている。
彼女が上段、一段開けて俺。話すには少し遠い距離感。
「やだなぁ先輩、夏で海ですよ?決まってるじゃないですか」
「仕事で行くんだよな……?」
俺の記憶ではモデルの撮影だったような。俺要らないかこれ。
なにすりゃいいんだ。
「そんな仕事してはい終わり!ってわけないじゃないですか。海行くんですよ海に、出張の醍醐味!」
「えぇ〜〜〜〜〜」
インドア派社畜を舐めるなよ。海なんて行こうもんなら、溶けるぞ。頭のてっぺんから。
たたっとエスカレーターから飛び降りる後輩に続いて動く床とおさらばする。
長い長いエスカレーターの終着点にはアパレルブランドがズラっと並んでいた。
どう考えてもアラサーのおっさんが来ていい場所じゃない。周りのキラキラした人達の反射した光で目が焼けそうだ。
今なら人をゴミ呼ばわりする某グラサンの気持ちも分かる気がする。
「そんな顔しないでください、ばっちりスーツ着てる人がここにいるのはちょっと違和感ありますけど」
ぷぷーっと笑いながらどんどん先へ進んでいく白帆。お前もジャケット着てるだろうが。
まずい、ここに1人になると不審者扱いされてしまう。
俺は急いで彼女を追いかけた。
「というわけで私の水着を新調するのと、どうせ水着持ってない先輩のを買いますよ」
「水着買うって聞いてたら絶対着いてこなかったのにな……」
はぐれるわけにもいかない、足取りは重いが彼女の横に並ぶ。
入ったのは割とシックなタイプのお店。
意外だ、こいつの性格からもっとポップなところに入ると思ったのに。
「何か失礼なこと思われてる気がしますねこれは……」
ほんと、勘のいいことで。
「なんにも思ってないからさっさと買って来いって。ただでさえ俺の場違い感がすごいから」
「私と一緒にいたら大丈夫ですって、あと何のために先輩連れてきたと思ってるんですか」
ローファーを鳴らしてどんどん奥へと進んでいく。女性物の服が周りにあると、何かいけないことをしている感じがしてしまう。
「何ってそりゃ荷物持ちだろ?」
「そんなわけないでしょ、選ぶんですよ先輩が。私の水着を」
彼女は足を止めると、ラックにかかっていた商品をいくつか手に取って、俺へと突きつけた。
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