第15話
ある火曜日。
珍しく定時退勤できると帰り支度をしていたら、事務部屋の外から視線を感じる。
総務課の他のメンバーも同じく視線を感じたのか扉の外に目を向ける。つられて見ると、よく知った顔と目が合ってしまう。
同僚が先陣を切って声をかけに行く。
「やぁ白帆ちゃん、誰かお探し?」
「やだなぁもう、分かってらっしゃるくせに〜」
「はいはいもうすぐ帰ると思うし連れて帰っちゃって」
まじであいつって誰とでも話せるんだな、すげぇ。素直に尊敬するわ。
総務課なんて用事がないと来ないだろうに、いつ総務メンバーと交流してるんだ。
もしかして俺の知らない飲み会とかあったりする?だったらかなりへこむが……。
まぁ関係ないかとPCを閉じ、アフターファイブへ飛び立つべく鞄を手に取った。早く帰れるんだ、今日は自炊でもするか。
白帆と飲む時は何かとスーパーのお惣菜やコンビニ飯になってしまうし。
机の上に書類が出ていないことを確認して部屋の外へと足を向ける。
窓から入る太陽の光はまだまだその温度を下げないみたいだ。
一応あいつに挨拶でもしとくか、知らない仲じゃないし。
「んじゃ、お疲れ様〜」
小さく呟いてモブはモブらしく気配を消す……が、何者かに腕を掴まれた。言わずもがな後輩である。
「ちょっと!用事あるって言ってるじゃないですか!」
「え、誰呼ぶ?もうみんな帰りがけだけど」
「先輩ですって!もう!」
「いや、俺はお前に用事ないんだけど。帰ってうんまいご飯を食べるという使命があってな……」
少し騒がしかったか、事務室の中からなんだなんだと顔が覗く。
こちらを見て皆納得とばかりに自席に戻って行った。ん、野次が飛んで来るかと思ったが……。
「今日は先輩にお願いがあって来たんですよ」
はて、なんの件だろうか。この前致し方なく、本当に致し方なく差し出されたビールを飲んだだろうに。
「お願いならこの前聞いただろ、この策士め」
「それは褒め言葉で合ってます?」
全く白々しい。
つんっと上がった鼻に丸い頬、丁寧に描かれたアイラインがそのあざとさに拍車をかける。
「貶してるに決まってるだろ」
「ひどい、こんなにも後輩が慕っているのに、、、」
よよよと泣き真似をするも、数秒すれば元の顔に戻る。
「んで、お願いってなんだよ。ものによっては直行で帰るけど」
「そこは『ものによっては聞いてやるけど』って言うところじゃないですか……まったく、ひねくれ者め……」
ごにょごにょ言っているが聞き取れない。こんな人の往来、しかも総務課メンバーがいるところで長居したくないんだが。
もにょついていた後輩さんもようやく口を開く気になったらしい。
両手で握りこぶしを作って胸の当たりに持っていき、ぷるんとした唇から言葉が放たれる。
「あのですね……お買い物に!行きましょう!!海に行くわけですし!」
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