第13話

「すまん、ちょっと時間もらえるか」


 課長からお呼びがかかったのは昼過ぎ。

 マンションの1階にあるパン屋で買ってきた最高の昼ごはんを終えて少ししてからだった。


「承知です、会議室行きますか?」


 事務室の入口近くにあるキーボックスに手を掛けながらメモ帳とPCを持ち出す準備をする。


「頼んだ、PCとかは要らないわ」


 うーん、なんだ?人事異動はこんな時期に関係ないだろうし。

 1on1も久しぶりだ、何かやらかしたか?


 総務課の隣に備え付けられた小さな会議室に入り、電気を付ける。


「いやぁすまんな、病み上がりのところ」


「いえこちらこそお時間いただきまして……」


 よっこいせと2人で対面に腰掛ける。もうおっさんだな俺も。


「それで、もう本題なんだが」


 さて、鬼が出るか蛇がでるか。

 願わくば転勤だけはやめてくれ、せっかくいいマンションやパン屋に出会えたんだ。


 後輩が付いてくるなんて聞いてなかったけれど。


「最初に謝っとく、すまん。俺じゃ守れんかった」


 珍しい、完璧な仕事ぶりで有名な課長が申し訳なさそうな顔で頭を下げるなんて。


「なんですか、少年漫画みたいにものものしい……そんなにやばい話ですか?」


「言いにくいんだが、横の企画から依頼でな……来月の頭にやる海での撮影、お前も付き添ってくれとのことだ」


 意味がわからない。企画課内で人出せばいいだろうに。なんで総務の俺がわざわざ行かにゃならんのだ。

 固まること数秒、朝の一悶着を思い出してしまう。そういうことかよ。


「ひとつお聞きしたいんですが、それ、依頼出してきたの企画課長じゃないですよね?本当は」


「ほう、鋭いな」


 にやっと課長が笑う。

 あぁもう話ついてるのかよ、珍しく申し訳なさそうな顔するもんだから完全に騙された。


「はぁ…………」


 思わず長いため息が漏れる。どことなく眉間も痛い。


「課長、それ白帆からで合ってますか」


「ご名答。白帆くんの言う通りだったな」


 足を組んで課長は笑う。


「参考までに、あいつはなんて言ってたんです?」


 一応聞いておこう。次飲む時は覚えてろよ。


「『多分先輩は私って分かりますよ〜あと絶対断らないです!』ってさ。気に入られてんな」


 くそ、やられた……。

 今朝の嫌な予感は当たってたってことかよ。嬉しくねぇ。


「他所の課と連携することはいいことだからな。最近よく働いてるんだ、休みだと思ってゆっくりしてくるといい」


白帆ですよ……ゆっくりできると思います?」


「ノーコメント。それにしてもよりにもよって君と白帆くんか、面白い。」


 それだけ言い残すと課長は椅子から立ち上がる。

 天を仰いだ俺の肩に手を置くと、課長は足取り軽く会議室から出ていった。

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