第8話

 月曜日、地獄の始まりだ。

 金曜は午後休、月曜は午前休になってくれないだろうか。なにとぞ。


 現在時刻は10時30分、そろそろ仕事のやる気にもエンジンがかかってくる頃。

 灼熱の外に比べて室内は涼しいのが救いだ。営業課は大変だろうなぁ。


 各課のスケジュールを流し見して会議室の使用処理を進めていく。

 夏終わりまでもうギチギチだ。数分単位でコマ分けされてるの怖すぎる……。もういっそ部屋いくつか追加で開けようぜ。


 確か9月にはどこぞのモデルを起用したPR誌面作るんだっけ。企画課の誰の案か知らんが海で撮影らしい。

 そういやそろそろ出張申請してもらわないと…こんな大学生の夏休みもろ被りで移動とかホテルとか取れるんだろうか。


「ん〜ちょっとそれは……」


 事務室で声が聞こえる。

 珍しく電話口で大声があがっていない総務課にいると嫌でも耳に入ってしまう。


「いいじゃん、営業のチャンスかもしれないし。人手も足んないでしょ?」


「今から出張にひとり営業の人組み込むのは厳しいですね。総務の厳しさ、知ってるでしょう?」


「俺なら顔が利くからさ」


 揉めるなら違うフロアでやってくれ。それにしても渋ってる方は聞き覚えがあるな。

 ふと視線を感じる…………あ。


 課長と目が合う。

 これはアレだな、お前行って追い払ってこいの指示だな。

 課長の死角になっているところから同期たちが「いけいけ〜!」と手を振っている。お前らがいけよ……。


 重い腰を上げて総務課の入口に向かう。


「すまん、声響いてるから他所でやってくれ」


 視線をあげると営業課の何某かと白帆。

 目を合わせること数秒。


「な、総務課の人来ただろ?」


 ちょっとどなたか存じ上げないが、恐らく白帆の同期かなにかだろう。


「それで、なにか用があるなら聞くが」


 先手必勝、面倒くさいことは主導権を握らなければ後でだるい。


「来月の出張、今からでも出張の人数増やせるよな?」


 どうして知らない人間にタメ口で話しかけられるんだ。

 思わずため息が出る。


 視界の奥で白帆があわあわしてる。


 総務が修羅場だったら事件がおきるところだった。今みんなゆるゆる仕事してたことに感謝するんだな、営業課の何某君。


「来月の出張ならもう申請でているはずですが。これから増やすのは難しいですね。」


「そこをなんとか、俺の顔を立てると思って!」


 何に対してお前の顔を立てるんだ。


「では課長に直接お話されますか?できるなら」


 ドアの前を譲る。


 ここからだと1番奥で腕を組んでいる課長が見えるはずだ。


 いくら若手でもうちのボスの話は聞いているだろう。まさに鉄人。

 仕事で妥協もしなければ自分にも他人にも厳しい。

 しっかり話せば優しいんだが、他の課だと会う機会もそうそうないからなぁ。


「や、やっぱり今度また来ます……!」


 すごすごと逃げ帰る何某。

 案外肝が座ってないな。そこは白帆にアピールしろよ。


「そんじゃ、俺も仕事戻るから。お前出張行くなら申請だせよ」


 俺の仕事は終わり、手をひらひら振って戻ろうと彼女に背を向けると、ふわっと甘い匂いが鼻を通り抜ける。


「ねね、先輩?ありがとうございます」


 

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