第7話
まず手をつけたのはフランクロール。ケチャップとチーズのコンボ、ふわふわのパン。
もっちりと口の中で甘さが爆発する。
続いてメインのフランクフルト。あまじょっぱさと肉々しい旨みが口を襲う。うわ、おいし。
「そんな幸せそうにパン食べる人います?」
「いやいや食ってみ。ほんとこのマンションに住んで1番良かったのは1階のパン屋だわ」
彼女も俺に続いてパンを頬張る。
もっしゃもっしゃと口を動かす姿はハムスターのようだ。
ん〜〜と手を頬に当て幸せそうな顔をする彼女は、仕事の時の「できる人」というより、年相応の女性だった。
……というかなんで俺は会社の後輩と真夏に外でパン食べてんだ。
「そういえば先輩、海とか行かないんですか?夏ですよ夏」
「あー……」
雲間から陽射しが差し込み、じりじりと肌を焼いていく。
「あれ、なにか理由アリな感じですか……ごめんなさい、答えなくても」
「いや、単純に暑いから行かないだけ。休日に部屋から出たくない」
「ちょっと!私の気遣い返してくださいよ」
ぎゃーぎゃー言ってる後輩を横目にパンを頬張る。ふむ、ハムエッグの方もやっぱり美味しいな。
「お前こそ行かないの、海。彼氏とか同期とか友達と」
「さぁ〜どうでしょうね!」
眉を下げてにやにやと笑う後輩。くそ、からかわれてんな。
「モテる人は大変そうだな」
俺はクーラーの効いた部屋でゲームでもしてますわ。話はここで終わりとばかりにコーヒーを飲む。やっぱり暑くてもコーヒーはホットが好きだ。
喉を通るや否や吹き出す汗、後でもう1回シャワー浴びなきゃな。
「ふんふん、先輩は夏暇だと」
「ゲームして寝るから忙しいわ」
食べ終わった袋を結んで振り回している、子どもかお前は。
「ねね、また朝あったらこうやって一緒に食べてくれますか?」
「いや……。」
断ろうと口を開いた瞬間、前見た寂しそうな顔が脳裏を過ぎる。
まぁ会社ではあんな生意気じゃなくて淡々と仕事を進める若人って感じだもんな。
「まぁ……たまには……たまにな」
キョトンと目を開いた彼女の口が次第に開いていく。
少し頬が赤いのは暑いせいだろう。
「わぁい先輩ならそう言ってくれると思いました!」
まるでひまわりが開くように、太陽が雲から顔を出すように。
光のせいだけじゃない眩しさに、思わず俺は目を細めた。
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