第6話

 結局あざとい後輩の圧によってハムエッグとフランクロールを買ってしまった。


 外に出ると起きた時よりキツい陽射しが髪を照らす。


「今日のご予定は?」


「おい、当たり前のように横に並ぶな。寝る一択だ」


 いつの間にか会計を終えてパンの入った袋をシャカシャカ言わせて白帆が隣に並ぶ。


「じゃあじゃあ、朝ごはんだけでも一緒に食べましょうよ!」


「お前まだ25だろ、友達と予定とかないの」


 デリカシーがないと言われようと、俺は1人でゆっくりしたいのだ。


「今日は空いてる空けてるんです、私が1日フリーなんて珍しいんですからね」


「もっと有意義に使ってくれよ、休日は有限だぞ」


 わかってないなと彼女は指を振る。なんでこいつこんなに先輩相手に砕けてるんだ。


「だからこそですよ」


 そういうと少し前に足を進めた彼女はこちらを振り返った。


「じゃ、いつもの場所で!コーヒー淹れるくらいの時間は待っててあげます」


「ちょ、おい……!」


 返事を待たずに自分のマンションに帰りやがった。

 仕方なくオートロックのドアを開けてエレベーターへ。


 帰ってきてくれ俺の平穏な土曜日……外よりはひんやりとしたロビーには俺の足音だけが響いている。


 エレベーターの鏡で自分の身だしなみをチェック。改めて見ると酷いな、上は適当なTシャツ、下はスウェット、髪はボサボサで髭も剃っていない。


 コーヒー1杯できるまでにシャワーを浴びれるだろうか。


 急いで自室の鍵を開けてパンをダイニングテーブルに置くと浴室へ向かった。

 朝にシャワーを浴びるのは気持ちいいが、あいつのせいだと思うとモヤっとするな。


 カラスの行水もいいところ、顔だけでも洗って髭を剃っていく。


 手早く着替えて髪を乾かす。セットは……いいだろう、別にプライベートだし。


 沸かしておいたお湯をインスタントコーヒーに注いで溶かしていく。ほんと、豆を挽くことはおろかドリップすら要らないなんて便利な世の中なもんだ。


 キッチンに漂う匂いに心が満たされていく。


 砂糖もミルクも入れずブラックのまま一口、やっぱ朝はこれだよなぁ。

 あまり待たせるのもアレだし、とバルコニーに出る。


「お、早かったですね先輩」


 うっすらと汗をかいた白帆が手をぷらぷらさせながら窓から顔を出す。


「ずっといたのか、お前」


 少し悪いことしたかな。


「いえいえ〜今来たとこですよ〜」


 ぷらぷらさせていた手をパンっと叩くと元気よく彼女は口を開く。


「それじゃ、たべましょ!私もうお腹ぺこぺこで」


「昨日あんだけ飲んだろ」


「何言ってんですか、たかが缶1本ですよ」


 若いっていいなぁ。

 数瞬、お互い無言の時間。それぞれ袋に手を伸ばして今朝の戦利品を取り出す。


 俺はパンを小さなテーブルに置くとコーヒーに口をつける。


「そいじゃ、ちょっと借りますね〜」


 彼女は前と同じようにうちのバルコニーの縁にパンやらコップやらを置いていく。


「そこ俺の家なんだけど」


「まぁまぁ、そんな堅いこと言わず〜」


 なし崩し的に色々許してしまっている自分に気付くがもう遅い、渋々彼女に倣って手を合わせる。


「「いただきます」」

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