第3話

 ベランダ事件から一夜明けて眠たい目を擦りながら電車に揺られる。


 あの後部屋に戻った俺は直ぐにベッドへと潜り込んだ。

 どうして1人で外飲みしてたら異性の後輩と話すことになるんだよ。


 正直企画課内のパワーバランスはよく分かってないので、あんまり仕事以外で関わりたくないんだよなぁ。変に恨まれても困るし。


 やけに洒落た石畳を踏みしめて会社へ向かう。

 一等地……というわけでもないが、それなりに小綺麗なこの街は、働きたい街ランキングでも上位にランクインしていた気がする。

 まぁ結局はどこで働くかじゃなくて、何をするかだが。


「おはようございます、先輩!」


 後ろから甘い声をかけられると同時に、肩に重み。

 振り返ると俺の頭を悩ませる後輩が。


「おはよう、ほんとに早いな」


「いつもは始業ギリギリなんですけど、なんだか今日は寝起きが良くて」


 総務のメンバーは社内でも比較的早めに出勤する。というのも車の手配や届いた郵便の仕分けなど、朝イチでの業務が多いからだ。


 逆に企画課はいつも始業5分前にちらほらと姿を現し、どたどたと走る音もしばしば。

 曰く、9時01分になるまではセーフとのこと。んなわけあるか。


 ほどよく距離を離して歩こうと脚を動かすが、その差は開かない。


「先輩歩くの早くないですか?」


「早い、お前と離れたいから」


「なんでですか、一緒に行きましょうよ!」


 もうほとんど走っている。ジャケットに皺をつけたくないな。


「今まで絡みなかったお前と一緒に通勤したら勘ぐられるだろ、変に。波風立てたくないんだよ、この社畜人生に」


「え〜〜それもまた一興、ですよ」


「面倒がすぎる」


 道端で騒ぐ方が目立つからと諦めて歩く速度を落とす。

 今日は……まぁいつも通りの仕事に会議、後は備品チェック入ってたっけ。

 隣にならんでこちらに話しかけてくる後輩現実から逃げようと、一日のスケジュールを思い出す。木曜日にもなると身体が重い。


「ちょっと、聞いてますか!」


「いやごめん、仕事のこと考えてた」


 ぎゃーすか騒いでいるといつの間にかビルの入口に。同じフロアにオフィスがあるから仕方なくエレベーターに同乗する。


 くそ、俺の平穏な朝の時間が……。


「おぉ〜!私が企画課で一番乗りだ!」


「まぁみんなギリギリだもんな」


「これからこの時間に来ようかな……先輩もいるし」


 頼む、やめてくれ。夜ならず朝までも生活を侵食されるといつ心休めればいんだ。


「ま、多分起きれないので無理ですね!」


 へへっと笑っている後輩を横目にほっと息をつく。


「んじゃ俺こっちだから」


 既に電気も冷房も入った部屋へと足を進める。「また金曜日に〜」という声に仕方なく手を振りながら。

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