第2話 死んだ過去
菅原と...仲が良くなったのは菅原が入試の時だった。
俺が丁度、道に迷っていた菅原を助けて菅原にそのまま懐かれてから始まる。
正直、菅原とは正反対の存在だった俺。
だから当時は仲良くなるなんて考えにも及ばなかった。
だけどこうして仲良くなった。
「じゃあ先輩」
「...ああ。気を付けてな」
「はい。気を付けて帰ります」
寒い夕暮れの中。
そう話しながら俺は菅原を見る。
菅原は俺を見ながら柔和になっていたが直ぐに引き締まった顔になった。
つまり元カノの話になるだろう。
「先輩。...あの女にも気を付けて」
「...そうだな。もう会いたくは無いけど仮に他校でも住所は一応近所だしな」
「先輩はお人好しすぎる部分があります。だから考えて行動して下さい」
「...わかった。...気を付ける」
「今日の事で分かったとは思いますけど」
そして菅原は俺を見てくる。
心配そうな顔で、だ。
俺はその顔を見ながら「お前は母親みたいだな」と笑みを浮かべる。
菅原は「いえいえ。...色々思う事があるだけです。母親なんてそんな」と言いながら苦笑いを浮かべた。
「でも何でお前はこんなにしてくれるんだ」
「...正直、私にも分かりません。だけど私は当たり前の事をしているだけです。それでこうなっているんだと思いますけどね」
「...おかしなヤツだな。だけどそういうのは嫌いじゃない」
そう言いながら俺は菅原を見る。
菅原は「じゃあ」と言ってから踵を返す。
俺はその姿に「ああ」と返事をしながらそのまま菅原と別れた。
それから帰宅する。
「ただいま」
俺はそう言うが家の中から返事はない。
何故か。
親父は仕事に行っている。
そして母親は...精神科病棟に入院している。
その理由は妹の自殺だ。
「...」
部屋の中を見ながら俺は考える。
それから鞄を下ろしてからそのまま家事をし始めた。
そして生ごみを捨てたりする。
ゴミも捨てた。
あとは掃除...洗濯とかか。
母さんはあの日。
妹の自殺で狂ってしまった。
いや。
性格に言えばうちの家が狂った、とそう言える。
「...全くな」
そう言いながら俺はテレビを点けてみる。
テレビでは特集があっていた。
しかもその特集は陰湿いじめゆえに○○中学校で自殺したA子の話だった。
つまりうちの特集である。
「よりにもよってか」
そう呟きながら俺は特集に注目する。
特集は何故A子さんは死なないといけなかったのかという事が議論されている。
まあどんだけ議論しても結論は出ないと思うけど。
正直、殺人行為だったのにみんな知らんぷりだったし。
第三者委員会もあてにならない。
そんな事を思いながら俺はテレビを観る。
だけど途中で思う事があってチャンネルを変えた。
「...忌々しい強迫観念だな」
そんな事を呟きながら俺は頭を叩く。
それから洗濯をしたりしてからそのまま写真を見る。
その写真は幼い頃の神子だ。
この3年後。
笑顔が無くなった。
俺はその事を思い出しながら頭を掻いてから居るとメッセージが飛んできた。
その相手は...菅原だった。
菅原はスタンプと文章を送ってきている。
(先輩。お風呂入ってます)
という感じでだ。
何を言っているんだコイツ。
お風呂の壁と湯気が写っている写真が送られてきた。
俺は赤面しながら(お前な!)と送る。
(というのは冗談です。今はそんな事より大丈夫ですか)
と書いてくる菅原。
俺はその文章を見ながら「...」と考える。
それから(お前こそ大丈夫か)と送ってから反応を見る。
その文章の意味。
それは。
(死んでないですよ。リスカもしてないです)
菅原は...精神科に入院した事がある。
今でこそ陽キャだが。
彼女は昔は陰キャだった。
そして...自殺未遂を起こしている。
理由としては家庭内ネグレクトである。
居場所が無かったから死のうとした、とリスカを繰り返した。
その為に手首は傷だらけだ。
(今は幸せです。だって先輩が居ますから)
(...それなら良いんだが)
(この事は先輩しか知らないですね。えへへ)
(...そうだな)
彼女はその事を俺にしか話してない。
あと家族しか知らない。
友人にも話してないそうだ。
何故か。
それは...彼女にも良く分からないそうだ。
(どっちにせよお前の体調も心配だから。あまり気にするなよ)
(あれ!優しいですね♪先輩(*'ω'*))
(...お前が死んだら全てが二の舞だからな)
そう書いて俺は送信する。
そう。
もう二度と失ってはならないだろう。
全てをだ。
だから共依存になってしまったのだろうけど。
情けない人間なのかもな俺。
(アハハ。冗談は置いておいて。...死にませんよ。先輩が居ますから)
(...だと良いが)
一つ一つの冗談が冗談に聞こえない。
俺はそう文章に返答を書いて送信した。
それから天井を見上げる。
死ぬとは何なのだろうか...。
何故心を病んでいる人は死を求めるのか。
そう考えたが答えは出なかった。
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