第2話 舘野美樹の場合

「それじゃあ写真これで終わりにしようか」

「ありがとうございました。先生」


 中学校に入るまでの本拠地だった東原ひがしはらスケートセンターで記念写真を撮ったんだ。

 そこにはほとんど知り合いが多くて、みんなときれいに写真を撮ることができたのがうれしかった。


「それじゃあ、女子たちは帰る?」

「先に料理店の方を送っておくから、俺たちはミスドで待とうか」

「そうだね」


 振袖を汚したら行けないから女子たちは一度帰宅して私服に着替えて再集合した。


「乾杯しよう!」

「メニューを見てから決めてね」

「これって食べ放題でしょ、アルコール込みで」

「そうだよ。とにかく選ぼうか」


 やってきたのは中華料理店『海龍ハイロン』で完全個室で大西先生が紹介してくれたところで、ときどき打ち上げで使われていたところなのでとても懐かしい。


 最初にまず適当に大皿に取り分けてから、飲み物の注文に入ったときに驚いたことがあった。


 理由としては二日前に二十歳になったばかりの佑李くんが普通にレモンサワーを飲んでも顔を赤くしないことだ。

 しかも、かなりおいしそうに飲んでいるのを見て蒼生くんと共に驚いてしまう。


「レモンスカッシュみたいだね」

「うそでしょ?」

「お前、かなり酒が飲めんじゃ……」

「両親ともに酒豪だって聞いたから……たぶん、遺伝だろうね」


 わたしはそれを見て隣にいるみっちゃんを見てしまう。


 彼女は結構飲むタイプで大学の友だちと飲み会をして、潰れずに必ずお会計をすることをしているんだ。

 それに初めて二人で飲んだ時を思い出して、ドン引きしてしまったことがあるくらいだ。


 そこから各々料理をメインに食べながら、ときどきお酒を飲みつつという時間が続いていた。

 話はそれぞれの大学の話や、練習の調子とかを聞くことが多い。


 乾杯してから五分後には顔が赤くなり、十分後には上機嫌に。

 二十分後には無口になり、三十分後には机に突っ伏して寝ている蒼生あおいくんを見ていた。


「蒼生、酒弱いな」

「このなかじゃ、一番の下戸げこだよね。うちもアルコールはパスするよ、お冷を頼んでくれない?」

「いいよ~、お冷四つとハイボール……は佑李くんは?」

「とりあえず、同じのと、まだ飲めそうだな」


 ちょっとーーーーーー‼


 その言葉が信じられない。


 思わず声を出しそうになったけれど、頭が痛くなるから残っているお冷を飲む。

 その後、二人はハイボールをグラスで頼んで余裕で飲み干してもう一つのグラスを飲んで終了していた。


 ちなみに佑李くんはレモンサワーのグラスを二つ、ハイボールを二つ飲み干している。


 グラスといっても居酒屋で出てくるような大きめのやつだけど。

 二十歳になって初めて飲む量じゃない気がするのでヒヤヒヤする。


 明日学校なはずなのに、心配になっちゃう。

 お会計したときにみっちゃんがまとめてくれて、すでに寝ている蒼生くんに関しては佑李くんが送っていくらしい。


「大丈夫? 普通に蒼生くん」

「俺が送っていくよ。タクシーを頼んでおくよ」

「ゆうりぃ~、もうかえる?」

「うん、帰る」

「美樹ちゃん、忘れ物はなさそう?」

「うん」


 みっちゃんと佑李くんは全く顔色一つ変えずに飲んでいるのを見て、こいつらはザルだなということがわかった。


 特にみっちゃんはレベルが違う。

 お土産で焼酎の瓶を家族でシェアして二日で飲んだらしいし。


「それじゃあ、美樹ちゃんうちらも帰ろう」

「うん」


 そのときに電車は終電だったので途中まで一緒に行くことにしたんだよね。

 それから男子たちが不安になるけど、佑李くんがついているので安心してしまう。


「それにしても、佑李くんが酒豪だったのは意外だな」

「そう? かなり飲めそうだなっては思ったけどね」

「マジで?」

「レモンスカッシュの感想はうちも同じだったから。節度を守れば、普通に飲めるし。キーピングがちゃんとしてるから、バンケットでも大丈夫じゃない?」


 それにしてもみっちゃんと佑李くんの方が誕生日が遅いのに、いつの間にか飲める種類が増えていたのは驚いたんだけど。

 おそらくあの二人は酒豪だと感じた。


 電車に揺られているときに自然と酔いが少し冷めてきた。


「明日学校?」

「明日は午後から」

「それだったらいいね」

「そうだね


 みっちゃんは管理栄養士を目指して大学で勉強している。


 あと履修している授業のほとんど必修科目らしく、テスト週間が終わってから会ったら燃え尽きた感じになっている。

 もともと栄養関係の勉強をしたいと考えていたらしいし、スポーツに関われることができるならと考えていたらしい。


「そうえば、卒論とかのテーマって決めるのは四年から?」

「うちはゼミが今年度には決まるから。卒論のテーマは三年から決めようかなって」

「そうなんだ」

「一応、成長期のジュニア選手の栄養面でのトレーニング」


 その言葉を聞いて彼女が経験したことを思い出した。


 ノービスAというカテゴリーにいたとき、彼女は小六だったんだ。

 いきなり背が伸びてジャンプが上手く跳べない時期が長かったこともある。


 そのせいでノービスAの最後の年である中一でスケートを辞めることになった。

 彼女が佑李くんと高校生になって再会したことが、とてもすごいな確率だって思う。


「みっちゃんが管理栄養士になったのって、佑李くんがきっかけ?」


 管理栄養士という栄養面からアスリートを支える資格を目指しているのも、彼の影響があるのかもと思う。


「あ、半分はね。スポーツをサポートするならどこでも良かったんだ」


 その話は意外だった。

 みっちゃんはもしかしたら、スケートをあそこで辞めたことを後悔していたのかもしれない。


「フィギュアスケートを辞めてからね。ジュニアで美樹ちゃんたちが活躍してるのを見て、モヤモヤしてたんだ……めちゃくちゃ未練もあったし」

「このままスケーターだったらって?」

「そんな感じ」


 でも、みっちゃんは大学生になってブランクがあるけどリンクに戻ってきた。

 マネージャーとしての仕事をメインにしているけれど、ときどき部員と一緒に練習したりしているんだ。


 また滑っている姿を見れるのは嬉しい。

 久しぶりに四人での時間ができて良かった。

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