第16話 その後のヴェンデルガルトとアロイス

 雲一つない、夏が来る前の穏やかな晩春の日。二組の婚礼が行われた。褐色の肌に映える白に金の縁取りがされた伝統的な婚礼のドレスに身を包んだガブリエラと、小さな宝石やレースに刺繍が施された北の国風の純白のウエディングドレスに身を包んだヴェンデルガルト。どちらの花嫁も美しく、国民は盛大に祝って喜んだ。


「とても綺麗だ――本当に、世界で一番綺麗だ。俺の花嫁」

 伝統的な花婿の衣装に身を包んだアロイスは、うっとりとヴェンデルガルトを見つめた。アロイスとツェーザルは、同じ衣装を身に着けていた。より花嫁たちが映えるように。

「お前を愛して、お前が住むこの国を俺は必ず守る。兄上と共に、約束する」


 「綺麗よ、とても」と、ツェーザルはアロイスが席を外していた時、こっそりヴェンデルガルトにそう囁いた。叶わぬ恋を諦め、ツェーザルはガブリエラを愛してこの国を受け継ぐ決意をしたようだ。すっきりとした顔つきになっていた。

「私も――アロイス様を愛して、お兄さまとお姉さまを助けてこの国を導くお手伝いをします。これから、ヴェンデルガルトの身も心もアロイス様だけのものです」

 そう誓うと、二組は誓いのキスをした。国民たちが、色とりどりの花を投げる。まるで夢の世界のような光景に、この結婚式に参加した人々の心は満ち足りていた。


「今夜からしばらく、お前を寝室から出さないからな――俺の愛を、体に刻み込む。楽しみにしていろ」

 アロイスがヴェンデルガルトにそう囁くと、ヴェンデルガルトは真っ赤になりながらも嬉しそうに微笑んだ。



 それから数年後、王は引退をしてツェーザルに後を継がせた。ツェーザル王政の始まりだ。賢い彼は、隣国のヘンライン王国とより強い同盟を結び、レーヴェニヒ王国とも繋がりを強くした。国は豊かになり、国民はツェーザル王を称え敬った。その妻であるガブリエラも、王妃の位を授かるとお茶や買い物ばかりの毎日の生活を改めて、ツェーザルを支えて尽くした。子も王子が三人に王女が一人。誇り高い王妃であり、子供を愛する母となった。


 ヴェンデルガルトとアロイスも、仕事で離れている時以外ずっと傍にいた。アロイスは外交や兵士の最高指揮官としてツェーザルを助け、ヴェンデルガルトは女神アレクシアの布教をして孤児院や学校を作った。怪我人や病人がいれば、ヴェンデルガルトは惜しみなく治癒能力を使い誰も平等に治した。そして、愛した。時折、子供のようにアロイスが拗ねるほど、彼女の愛は広く深い。

 だけど、誰もが知っている。ヴェンデルガルトが、アロイスだけは特別に愛していることを。その証に、王子を二人、王女を三人産んだ。ヴェンデルガルトは、その子供たちも深く愛して、その愛を広めなさいと教えた。アロイスとヴェンデルガルトによく似た子供たちは、賢く育った。


 そうして、ビルギットはロルフと結婚した。二人の子を産み、ヴェンデルガルトの子供の乳母になったのだ。彼女は生涯を、夫と共にヴェンデルガルトに仕えて彼女を見守った。カリーナはというと、ガブリエラの兄であるルードルフに求婚された。ルードルフは、初めて会った時から奔放で明るく、しかし心優しい彼女を愛した。身分が違うとカリーナは断ったが、ルードルフの愛情に負けて彼と結ばれた。子供は一人だが、カリーナに似て元気で明るい。それでも、ビルギットと同じくヴェンデルガルトのメイドであり続けた。


「天に召される時が来るまで、きっと私は幸せだわ。唯一の愛しい夫と、大好きな王と王妃。一緒にこの国に来てくれた、優しくて大好きなメイドと護衛。可愛い魔獣。そして、子供たち。たくさんの愛おしい人たちに囲まれて、こんなに幸せなことはないわ」


 ヴェンデルガルトがそう語っていたと、当時の事を書いた文献には残っている。バーチュ王国の、もっとも繁栄した時期だ。その文献を見た全ての学者は、「この時代に生まれ、ヴェンデルガルト様にお会いしたかった」と述べている。


 ヴェンデルガルトが愛する人と幸せに過ごした物語は、ロルフによって記されていた。その物語の終わりを、ロルフはこう続けた。


『私と妻のビルギット、カリーナ。そしてテオ。私たちは、生まれ変わってもまた彼女にお仕えしたいと願っています。ヴェンデルガルト様がこの世の女神であり、私たちが崇拝する愛に満ちた人であるからです。アロイス様と幸せに微笑む姿を、私たちはこれからも見守り続けます。命が果てるまで』


 そこで、ロルフが書いたヴェンデルガルトの物語は終わっている。この文献は大切に保管され、今なお王家の書庫に残されている。

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