第三話 わたしの視点
これはたまげたな。あんなビジョンを見るお客が現れるとは、想定外だ。
まさかあのお客も、あのヘルメットとゴーグルが、人に未来予知の能力を与える機械だとは思うまいし、その事実を知れば、あっと驚くだろう。
しかし、わたしは今、その場合に想定される驚きの、何千倍もたまげているように思う。
お客の未来予知によると、近い将来、凄惨な核戦争が始まる。
ビジョンが確かに未来予知であることは、確認済みだ。
ある時、比較的近い未来のビジョンを見たお客がいて、実際にそのビジョン通りのことが起こった。
そんなことが、何回もあった。
だからこの装置は、正真正銘、本物の未来予知装置なのだ。
わたしは、被験者から得た未来のビジョンを、政府に売っては金にしている。
災害や、規模の大きい不幸な出来事の未来予知は、特に有り難がられる。
本来なら不測の事態であるものに、備えることができるからだ。
さっきのお客のビジョンからは、中性子爆弾というワードが出た。
わたしの予想では、E国が怪しい。
中性子爆弾と言えば、平均二百万電子ボルトもの大きなエネルギーと、光速の十パーセントもの速さを備えた中性子線を発する。物理的破壊力は他の核より小さく建物などは綺麗に残す一方、生物の体は破壊し尽くす、非常にタチの悪い爆弾だ。
そんなものを大量に使用するのは、あの悪名高いD博士を抱えるE国に違いない。
これを政府に報告すれば、わたしは英雄になれるやも知れない。
二万円。装置によって得られる直接的な売り上げは大した額ではない。
にも関わらず、満足しなければタダ、という宣伝文句を掲げるのは、被験者のビジョンに、売り上げ金以上の価値があるからだ。
(第四話に続く)
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