あかんぼう
イタチ
第1話
善意とは、人によって、違う事は、我々も、皆知ったところである
「しかし、諸君、我が、オズボール高校、ボランティア部において
最近の成果は、目まぐるしく低いとは、思わないか
特に、ハナ君は、二週連続で、休止を、していることを、ここに、言わなければならないだろうことを、私は、言う事になる」
眼鏡をかけた、長身、ひょろ長の制服を着た男が、左右に別れ、長方形に、囲まれた長いテーブルに、囲むように、座る
三人の部員に向けて、そう発表を、繰り返した、
有益な、午後にもかかわらず、この部の長は、それを、三十分も、激励に、費やし、三人の部員の顔は、明らかに、辟易し始めている
そんな中、高身長の女子部員が、立ち上がった
「先ほども、言いましたが、ハナ先輩は、祖父母の介護を理由に、休まれたと、何度も、言ったはずです、それとも、部長は、何ですか、介護よりも、部を、優先しろと言うのでしょうか、それは、ボランティア精神に、反するのではないでしょうか」
部長は、手を挙げて、規律した生徒のほうへと、目を向けて居たが
口を閉ざした代わりに、眼鏡を、くいっと、指で、あげると
口を、開いた
「僕は、それを、攻めているわけではない
ただ、何の断りもなく、そして、休んだことへの追及
そして、ボランティア部を、優先すべきだと、僕は考えているね」
三人の部員の目線が、別方向へと、向き始めた
「しかし、君たち、僕たちは、やるべきことが、もっとあるだろう
近所のゴミ拾い、川原の清掃、障害者の手助けとか」
一人が、本を読みながら、口を開く
浅く刈った、髪型、小柄で、ずんぐりむっくりとしている
その、そばかすのまだらについた頬を、動かしながら
「しかし、そう言う、部長は、何か、大層な事を、成し遂げたんでしょか」
部長は、その、細長い目を、下へ向け
「いや、これから、計画を、練ることが、最重要課題だと、僕は、そう思うんだ
ネルジェ君、しかし、そう言う、君こそ、どうなんだ、この会議のさなかに、つまらないていぞく本等など読んで、生徒会へ、見つかったら、この部に、迷惑が届かないようにしてくれたまえ」
青年は、本から、そのどんぐり眼を、眠たげに、見開いて、部長へと、向ける
「お言葉ですが、生徒手帳も、読んだことも無いようなので、言いますが
学校に、活字で、持ってきてはいけないものは、明らかに、十八禁物であり、この小説は、それには、分類されてはおりません
なおかつ、今朝の早朝会も、まともにろくに聞いていらっしゃらないようですが、サリュー先生が、この本を、進めていたのを、ご存じないと言う事は、どこかで、油でも売ってらっしゃったのでありましょうか
カギリ部長」
黒板の前に立っていた、その長身は、いつの間にか、窓の方を向いている
ブラインドが、かけられ、その白い線から、向こうに、何かが見える訳ではなさそうである
「そんなことは、どうでも良い、たとえを、いつまでも、ねちっこく話すなど、ナンセンス
人間としての、感性を、私は、疑う
完璧完成された人間になりうるためには
私は、最も、エレガントかつ、英知で、知的な、ユーモアーセンスが、必要であると、深く考える訳だ
しかし、諸君、君たちは、何か、役に立つことは、無いのかい
こんな、校舎の端の隅っこの百二十年の歴史ある
このクラブにおいて、こんなに休暇のある時期など
数え得ても、無いほどであろう
歴代のObたちも、さぞお嘆きであろう
あれは、戦時中・・」
ハナ・ネルジェ・フランチェが、座っている中
先ほど、反撃に、出て、ハナを、かばった長身金髪ヒョロナガのフランチェが、その細い指と手を挙げた
しかし、部長は、目線も合わせず、白い線へと向けて、話していた
「部長、ガラゴール邸を、ご存じですか、地方紙にも出た
悲劇的な、一家の話です
ご家族の夫と、生まれて間もない息子が、交通事故で、亡くなった、家なのですか
その時の、ショックでしょうか、妻のブラウンさんは、自分を傷つけていると言ううわさが
町では、立っています、私も、情報収集を」
フランチェの話を聞いていた、ハナが小声で、つぶやく
「ああ、お母さんも、その話、していたわ、なんでも、腕なんかを」
今まで、明日の方向を、見ていた部長が、長テーブルに方向を、変えた
「そうか、君たちが、行きたいのであれば、仕方がない、そのナガゴール氏の家に、お手伝いに、行こうじゃないか」
それを、遮るように、本を、置いていた
ネルジェが
「手伝いとは、望んでこそ、やるべきで、相手が、それを、不要と思って居るなら、それは、迷惑な行為ですよ」と部長に、にらみを利かせた
かぶせるように
「私も、情報を、収集していますが、日に日に、傷が、増えているようで
精神病も、視野に、含めるべきでしょう、ですから、直接向かうのではなく、まずは、病院に、意見を、聞くべきでしょうね」
「わたしも、そう思うの、だって、お母さんが、旦那さんと、息子さんの遺体も、酷くて、警察が、会う事もできず、火葬されて、それを知って、錯乱してしまったって、言っていたから、私たちが行っても」
ハナの言葉を、遮るように
部長が、独善的に、言い放つ
「我が、歴史ある、ボランティア部だ
こういう時は、ルールに従うべきだ
困って居たら、助けるだ」
その正々堂々とした発生に対して、ボソッとネルジェが
「多きなお世話と言う、言葉もあるけど」と不吉に、言い放つのであった
これを、境に、ボランティア部の会合は、一端の休止を、決め
問題の解決に、乗り出すことに、決まったのである
採決を、取らず、独壇場に、権限を、部長が、施行したところで
特段、やる順位が、さほどないこの部において、異議を、唱えるところは、あまりなかったと言えたのかも知れなかった
暗い家の中カーテンから漏れ出す光を見る光景は、まるで深い深海から、地上を、見る時の光のカーテンを、連想させる
それほどまでに、暗いそして、厚いその布は、外との明かりと喧騒を、遮断せんがための厚い壁に、思われた
「それで、誰が、挨拶をしよう」
病院で、話を聞くと、自分たちが行っても、門前払いで、大丈夫の一言
自分で、自分を傷つけるのは、ストレスによるものの可能性が高い
病院に行くか、ちょっと、君たちが、話し相手になってくれないか
と言われたのが、つい先日のことである
そして、そろいもそろって、四人のメンバーで、一軒の家の扉の前に、立っていた
扉には、ガラスが、木枠の向こう側に、絡み合ったその奥に、あるが
布か何かで、その奥は、引かれ覗きようがない
それはまるで、今の彼女の心の心境を、言い表しているようであると、思われた
ハナが言う
その低く大柄な彼女は
「やっぱり、やめておいた方が、いいのかしら」と、挨拶の順番を、提案した後に、後ろ向きな意見を、進言した
「そうは言っても,病院に、頼まれてしまったし
行くだけ行くのが礼儀だと言うものだろう、行かなくても、それは仕方ないと、言うかもしれないし
相手は、デリケートだ、しかも、我々は、高校生だからと言っても、まだ子供だ、子どもを失った人間に対して、これは・・・」
眼鏡を直しながら、いつもの制服姿の部長が、言う
「君たちは、何を、怖気づいているんだ、我々は、かの有名なボランティア部
何を恐れることがあろう
助けることに、何の気兼ねが、居るのだろう、さあ、チャイムを鳴らして、行くことにしよう」
皆が、顔を合わせて、先頭に立った黒い細い男を見る
あるものは、ため息をつきかけ
あるものは、目を伏せ
またある者は、口に手を当てて、目を丸くしている
壊れたような、チャイムが、奥の方で、鳴る
部長の指が、ベルから、離れたころ
壊れたような、ドアの開錠の音とともに、ゆっくりと、木の扉が、前に、ひらいたのであった
「おはようございます、ブランさん
私は、オズボール高校、ボランティア部
部長カギリ・ルーズと言います
あと、後ろの方たちは、小さいのからハナ、ネルジェ・フランチェルとなります。
今日、いきなり、連絡もなく、玄関の前に立ちチャイムを鳴らした事の非礼は、詫びます
しかし、我々、由緒ある、ボランティア部は、困っている人が居れば、何処までも、行かなければならないと言う、信念のもと、活動
を、行っています、それは、何処でも、其れこそ、我が町内となれば、それは、猶更、もっと早くいかなかった事を、詫びなければいけないほどであることを、私は、心底、悲しく、残念に思うほどです、さて、それで、ガラゴール夫人、何か、あなた自身を、傷つけるような、それを、取り除くことのできるような、お手伝いは、ありますでしょうか」
その不信そうな、黒の混じった、茶色い瞳は、玄関の陰で、更に、暗く
そして、外に出ていないような、白い肌を、敗れたような、布で、覆い
その腕は、片方が、包帯で、何重にも、ギブスのように、ぐるぐると、巻かれていた
一種異様な、その光景を、玄関に見た、人間は、消毒液を思わせる匂いを、ドアが開いた瞬間から、嗅いでいた
「あら、人助けですか、それなら、もっと早く、あの2人を、息子と旦那を、助けてくだされば、他に、ひつようなことなど何もありませんでした事よ」
カギリ部長の表情は、後ろの三人には見えない
ただ、立っている、その後ろ姿が、口を開いたようで、三人の鼓膜には、聞こえる
もちろん目の前の、ブランさんにも、聞こえているのだろうが、その表情は、下に落ち込み
何かを見ていると言う風では、全く無い
「夫人、確かに、何か起こる前に、動けないのは、我々、歴代、ボランティア部の痛恨の傷跡で、あり続けます、しかし、今、我々は、あなたの前に、たち、あなたを救おうと、考えています
どうでしょう、こういう考えを、持っていただくことは、可能でしょうか、
我々は、人が、救われるのを見て、楽しむのを見て、安心するのです
ですから、我々のためを思って、何か、必要な事は」
ドアの奥の彼女は、したから、目線を、前に向けた
その視線は、相変わらず、ぼやけ、何かを見ていない、夢見心地を、連想させた
その顔はやつれ、到底誰かの話を、聞けると言う感じはしない
しかし、その、貧血気味のような、薄い唇が、開くと
声を、四人は聞く事になる
「皆さん、ありがたいのですが、私には、静寂
これが今一番の慰めなのです
だれも居ない、私だけの世界
それで、ようやく、あの二人のことを、誰にも邪魔されず思い出す事が出来るのです
それこそが、今の私の最大値の喜びなのです
それを邪魔されるのは、私にとって、酷くきつく
点滴を、もぎ取られた患者のようなもので、養分を、得ない私は・・・すいません
やはり、ありがたいのですが、今日は、帰ってもらえますか、一人に」
背の低い軽くウェーブの掛かった小柄な女子生徒が、前に出た
「はい、そうします、でも、買い物とか、何か、面倒な事でもいいんです
話し相手にも、若輩者で、話すに、耐えないかも知れませんが、頑張って、聞かせていただきますので」
彼女は、苦笑いにも似たほほえみで、笑うと、会釈した
全員がそれに、ならっているときには、前の木製のドアは、ゆっくりと、音を立てて、締り
中では、カギがかけられる、ガチャリと、言う音が、部員たちの前には響いた
「それじゃあ、諸君、いったん、おいたましようか」
カタギリは、そう言うと、先頭を、変わり、一番後ろに、行くと、歩き始め、それに続くように、後ろから順に歩き始めた
「しかし、部長、このまま、帰ることで、良いのでしょうか」
ネルジェは、抗議する口調で、部長に、詰め寄るが
部長は、とにかく、歩幅も変えず、どこかに行きたくて仕方がないようであった
「そうですよ、これに置いて、あきらめるんですか、彼女はまだ心を開いていません
本当は、大変な状態、状況にもかかわらず、我々を、それに巻き込ませないために、拒絶している可能性もあります
誰かに頼ると言うのは、それだけ信用されなくてはいけません
明日も、向かいませんか
手も、片方、使えないようですし
あれでは、ジャムのふたも、開くことは、ままならないと思われますよ」
片桐部長の頭に向けて、直角に、フランチェの言葉が、反響するが
部長が振り向く動作もせず、相変わらず、大股で、前へと、進んでいく
そのあとを、仕方なく以下三人の部員たちが、ついて行った。
その行先は、町はずれにあるサーズと言う喫茶店であった
何処にでもあるような、古臭い外装と、やっているのかさえも、分からない、店内の暗さは
覗き込んで、ようやく、橙色の明かりを、中に、見ることで、その店の開店状況を、図る事が出来る
何も書かれていない、ドアノブを開けて、ベルの鳴り響く中
四人は、店内に入店した
カウンターに座っている、髭を生やした老人を、横目に
「コーヒーをお願いします」
と、部長は言うと、一番奥のテーブルに、席をついた
「君たちは、何を、急いでいるのかは、知らないが
我々は、ボランティア部だ、そう急ぐことはない、今日君たちが、失敗したところで、私は、全く動じもしていない、だから心配しらないのだよ」
部長が、そう言い切ったと同時に、テーブルに、白いカップが、受け皿付きで、四セット、運ばれる
老人は、軽く頭を下げて、元の座席へと、からくり人形か何かのように戻って行った
「しかし諸君、コーヒーで、喉と、頭の回転を、戻しながら、考えようじゃないか
さすがに、明日も同じことを、繰り返すのは、芸がないと言うものじゃないだろうか」
ぽちゃり、ぽちゃりと、黒いコーヒーの中に、角砂糖を、五個ほど入れていたフランチェは、コーヒーカップを、引き寄せながら
「部長、責任転換は、宜しいですが、もちろん、この喫茶店は、おごりでしょうな」
部長の頬を、冷たい液体が、流れ落ちる
「当たり前だ、部費を、こんな場所に使う訳にはいかない
もちろん、町から、頂いた、ボランティア募金にも、一切、手は付けないよ」
三人の目が、部長と、そして、学校にある、部費の振り当てノートを、確認しなければと言う、感情が、渦巻く中、コーヒーに、ミルクを、混ぜていたハナは、スプーンを置いてから
「でも、どうすればいいと思いますか、医者を連れて行っても、同じだと思いますし」
横に座っていた、彼女は、角砂糖を、じゃりじゃり、食べながら
「そうは言ってもですよ・・いえ、そうですよ、今日のことを、今一度、お医者さんに、報告に行けば、なにかべつの
お糸口が見つかるかもしれません
少なくとも、我々よりも、彼女の接触は、早いわけですし」
すると、ハナは、妙に、しかめっ面をして
「でも、不思議ですよね、彼女、つまりは、ブランさんは、事故中は、パートに、出かけていた
つまり、怪我を、していなかったはずなんです、私の聞いた話では
でも、今日、あった彼女は、明らかに、右手の手首から先が、ありませんでした
器用に、鍵を、回せていたことから、利き手であったようですけど」
コーヒーを、一滴も飲まず、本を読んでいた彼は
「良く見てますね、将来、良いうわさ好きのおばさんになれますよ」
と、かるくちをたたきつつ、言葉にケチをつけられたかと思い、ハナのしかめっ面を、受けるが、本で隠れた後であった
「それがどうしたと言うのかね、その前に、何らかの事故があったかもしれないじゃないか、どちらにしても、我々も、そこら辺を、踏まえ含んで、彼女を、如何助けるかを、ボランティア部として考えなければ・・・」
ちょっと、待ってください
金髪が、立ち上がると、ふらりと、狭い喫茶店で揺れた
「もし、それが、古い時にできた物であれば、包帯をつけたりはしないでしょう
かりに、そうだったとしても、先輩から聞いた、噂話では、いえ、お医者さんも、そうでしたが
怪我を、負っていると、それも、自らを、傷つけるストレス性のような可能性も、示唆されていました
もしかすれば、あの大きな
怪我も、早く、死ぬために・・・これは、急を、要するかもしれません」
眼鏡を直しながら、冷めたコーヒーを前に
「それは、君の勝手な妄想だろ、フランチェル君
仮に、自傷行為に及んでいたとしても、自ら、右手を、切断することが、本当にできると思うかい」
出来ないとでも、と金色の髪を、振り回しながら、2人がコーヒーを飲んでいるうえで
彼女は、叫んだ
「静かにしたまえ、ここは、ただの喫茶店だ、大きな声を出すなら、体育館か、川原にしたまえ
しかし、不可思議だとは、思わないかい、自殺したいなら、わざわざ、右手を、切断すると言う回りくどい事ではないだろう、また、手首を切ったことによる、感染症で、手が駄目になるなどの
事はあるだろうが、どちらにしても、彼女は、何を目的としたんだ、やはり、ストレスだとでも言いたいのか」
皆だまるなか、地元のくだらないラジオが、店内には、流れていた
それを聞いて、老人一人が、ほくそ笑むのが、席からはうかがえた
「部長」
「なんだ」
本から、顔を上げた、少年は、コーヒーが覚める前にと、冷めたコーヒーを、指さしながら、言う
「僕はそろそろ塾ですので、明日の予定と、そろそろ、事の決定と、行動を、示していただけませんか」
部長は、難しい顔をして、口を、一口付けたが
そのあと
「現時点では、今日と同じことの、繰り返しとする
なお、ひまな物は、引き続き、会議とする」
結果、同じような談議が、繰り返される中、その結果は、どっちみち、同じことに決定を覆すこともなく
また、本をもって去って行った、青年を後に、この喫茶店には、誰も、入ってはこないのであった
ただ老人の卑屈な、笑いの中
ラジオからは
いつものアナウンサーの声で、「両性具の羊が・・」
と、かすれカスレに、店内に、響くのであった
次の日、彼女の家に行く前に、四人で、病院に向かった
昨日のことを、部長が、事細やかに、話していると
明らかに、医師の顔色が、変わった
「本当に、右手の先が、無かったのかい」
部長は、こくりこくりと、操り人形のように、首を縦に振った
「これは、本当に、まずいかも知れない、車で送るから、ついてきてくれないかい」
一応、この街では、このボランティア部と言うのは、それなりに、信用されている部の様で、ここに来た時も、それなりに、対応してくれた
まるで、ボーイスカウトのバッチを、全種類獲得したような、人のような、扱いに思えたほどであると
ネルジェが、思うほどであった
車の窓の外を、流れる光景を、見ながら
車とは楽だな、カギリが、考えているさなか
その助手席の背後
後ろでは、一人は、本を読み
一人は、物思い気に、下を向き
もう一人は、小さな手帳のようなノートに、物をかいている
今日の計画と言ったところであろう
そんな中、うつむいていた顔を上げて、運転席に向けて、白衣を着た医師に、声を上げた
「すいません、フラワー医師
実は、今日はどう対応すればいいのか、悩んでいて
だって、もしかすると、自ら、手を、切ってしまうような人ですから、我々が行くことで、変に刺激してしまうんじゃないかと」
カギリ部長が口をはさむ
「それを、阻止するのが、我が部だとは思わないかね
僕は、何としても、この部の名誉と歴史にかけて、彼女を救うべきだと思うよ」
本の中で「落ち葉拾いも、同じくらい重要だと思うけど」と、つぶやく声は、本と、車の喧騒に、かき消えた
「でも、私たちが、一体何ができると言うのでしょう
うちのおばあちゃんも、いつも誰かいないといけないけど
でも、彼女につきっきりに・・あ」
その時、何か、嫌な予感を感じたように、一人顔を、本から上げる少年が居た
その横で、ペンを止めて
長身を、折り曲げるようにしていた彼女は、じっと、前を向いていた
「そうですね、われわれも、今回の件は、急用を、要すると、思って居まして、精神科医の先生にも、お願いして、どうにかしなければいけないと、考えて居た所です
ですから、私が居ますし、今日のところは、安心していてください」
先生の言葉を、遮りかねないように
彼女は、ペンを、握りしめて、言う
「そうですよ、我々が、彼女の直ぐそばにいて、お手伝いして、みはればいいんです
ああ、簡単なことですよ」
それが、通ってしまうのが、この街の歴史に根付く
このボランティア部の古さの問題だろうか
「そうしてもらえると、助かるよ、我々では、どうにも、手が回ら無いところもあるし
専門の先生も、今日は、居なくてね、あの病院の施設では、常に見張ることも、ままならないし」
本を、いつの間にか、置いて、口を出す
「素人に、そんな事を、させても、良いんですか」
彼は、一言、車内でいった
「君たちは、ボランティア部だろ、じゃあ、大丈夫さ」
車は、丁度、ガラゴール邸の前に、白い車体を、到着させた所であった
「それじゃあ、明日、朝一番で、伺います
抗生物質は、出しておきますから、くれぐれも、彼らに、頼るように
お願いしますよ」
先生は、一通り、診察を終えると、車に乗り、颯爽と、向こうの方へと、走り去っていった
「大丈夫ですか」
ハナは、ここにいていいのかと、尋ねたのであろうが
夫人は、何も言わず、むすっと、した顔で、彼らを、一瞥した後
「お茶でも」どうぞ
そう言って、その築年数が、高そうな、花柄の壁紙が色あせた、高い廊下を、歩く
みな、磨かれたような、黒い木の廊下を、歩く
「本当に、大丈夫だったかな、お茶を、出してくれるって言ったけど、手伝った方が、良いのかな」
後輩の背の高い女子生徒へと、ハナの質問は投げかけるが
しかし、彼女はと言うと、興味深げに、室内を、観察していった
「どうぞ」
物言わぬ、手の示しで、彼らは、それぞれ、楕円に形のあるテーブルへと、椅子に座り、席に着いた
彼女はお勝手へと、向かうので、女子生徒は、それに続くように、立ち上がる
男子生徒はと言えば、何か、仕事はないだろうか、ちらりと、窓から見える庭を見たが
すすきのような植物が、窓を覆い隠すように高く、
そこには、茶色く生えていた
「あっ、アップルティー、それも、カモミール店の物なんですね、私、あそこが好きで、この街だったら、あそこでいつも買うんです
でも、本当に、手伝わなくて大丈夫なんですか」
ハナは、危うそうに、ヤカンのふたを開けて、そこに、ボールから、水を注ごうとして、手から、落としそうになるのを、手伝いながら、席に戻るのを、やめた
反対に、フランチェルは、ブラン夫人に、お使いのようなものはないかと、再度尋ねていた」
突然の訪問の後、このままでは、健康の維持を、害しているのを、見過ごしたことになり
私たちも、罪に問われかねないと、あいまいなことを、言って、我々は、この場所に、残ることになった
確かに、医師の場合、それも、あり得るし、我々と言う証人も出来てしまった
更には、この家に、一人で、手伝いを、残すことも、出来ず
結局は、泊れる部屋が、四つは、あると言うので、医者のほうが、色々と、人手があった方が良いと、はた迷惑なことを、
言いながら、我々四人が、ここに泊まるような、算段が、出来てしまったと言う訳なのであった
「すいません」
先ほどから、ハナは、それに対して、特にあやまると言う事を、繰り返していた
それも、医者が、包帯を、解いた時、その状態が、思ったよりも芳しくなく
更には、それは、見ていて気持ちのいい状態ではないことが、ボランティア部の四人には、見えた
テーブルの席には、窓を背に、この家の主人たるブラン氏が、楕円の先端に座り
その左右を、部員たちが、年功序列に、座っていた
テーブルには、それぞれのティーカップと中心に、一つ、クッキーが、置かれていた
それは、ちなみに、部員のハナが、やいて来たものであり
皿の上に、山盛りに、置かれており、それぞれが、摘まむと言うような風である
しかし、舞台は出来上がっても、夫人は、お菓子はもちろんのこと、お茶に、口を、付けるようなこともせず
ただただ、何を見るともなしに、テーブルを見ていた
部員が何を話そうとも、その会話に、返答はなく
冷めた紅茶ばかりが、テーブルに、五つ残る事になった
その間、夫人の観察をしていた
フランチェルは、夫人の傷と言うものが、リストカットのようなものや、髪を、抜くと言うものではなく
まるで、どこかを冒険してきたように、いたるところに、付けられていることに、きが付いたが
しかし、だからと言って、夫人が、冒険に、早々出かけているとも考えられなかった
では、腕の負傷との関連性が、何かあるのかと言われれば、それも不明としか言いようがなかった
彼女の解かれた、腕の包帯の下には、鋭い刃物で、切ったとは到底思えない
ちぎられたかのような、肉が、骨と血のにじんだものの中に、見えてしまった
しかし、それを見れば、ますます、不可解であり
これは、誰か、別の人間が、それこそ、彼女に協力し
彼女を、傷つけようとした後なのではないだろうか、そんな疑惑を、考えずにはいられなかった
自らを、自分で傷つけるのと、他者であれば、それはどうであろうか
例えば、自殺を禁じている宗教もある
そうであれば、自分を、傷つけることを、禁じていたとしてもおかしくはない
しかし、どちらにしても、彼女の、その傷が、果たして、何のために、付けられたかの、理由を、話してはくれた状況には、なりえてはい無さそうであると彼女は、そう考えを巡らせていた
「しかし、夫人、あなたは、一人だと言うのに、失礼ですが、非常に、きれいに、この家を、維持してらっしゃる、しかもその傷だらけの体でです、どうでしょうか、その秘訣を、お教え願うと言う事で、我々に、ここに泊めさせ貰うと言う事もありますし
何か、お手伝いを、することは、ございませんか」
夫人は、その言葉に対しても、さしたる変化も見せず、いつ、立ち上がって、この部屋を、出て行かないとも限らなかった
しかし、夫人は、そこn
い居続けたが、不意に
「今夜は、皆さん、何が食べたいですか」
と、相変わらず、誰かを見ている風ではなかったが、ついに、顔を上げて、そんな事を、言ってくれた
カギリは、なんでも、と言っていたが
ハナは、得意料理は何ですか、私は
と、会話を、続けてはいた
しかし、彼女は、やはり、会話をするような雰囲気ではなかったらしく
それに返答はなく、我々の答えを、待っているようでさえあった
そんな時、さすが日本に目を落とすことなく、テーブルの木目を、目で追っているようだった
ネルジェが
「ポトフー」
と、言った
夫人はそれに対して、ようやく、その血の気の無い唇を開いて返答した
「お肉に、何か、リクエストは、あるかしら
それとも、ベジタリアンのような、物が、お好き
だとしたら、ブイヨンのもとは、駄目かしらね、他の人は・・」
皆皮切りに、それぞれが、食べたいものを、口にし始めた
結局、半ば強引に、買出しと、もう半分は、庭の手入れを、
することになった
家の掃除は、どうでしょうか
誰かが、そう聞いたが、夫人は、首を横に振って、それを、否定した
「じゃあ、行ってくるから」
女子に買い物を任せる理由もなかったが
しかし、男子生徒ふぃたりは、鞄から、ジャージと、軍手や、鎌などを、取り出した
なぜか、
そう言う事も、多いこの部の人間が、それらを、持ち合わせているものも多い
もしも、職務質問されても、ああ、とこの部の名前が出たら言われかねないし
大体、学生に、深夜に出歩くことなどない、この連中がされることは、非常に、稀であろう
「それで、この庭で、切ってはいけないもの、触ってはいけないものは、ありますか」
カギリは、そう、尋ねるが、夫人は、それに対して、余り、返
答をせず
「それは、無いわ」と、適当に、答え
カギリのすすきを、きれいにするという提案にも、ええと答えるばかりであった
秋口の多少冷えるその晴天の中
2人の学生が、すすきと格闘している中
もぅ二人の女子生徒は、鞄を、かけながら、町にへと、出かけていた
他にも、洗剤や石鹸など、別の買い物も、仰せつかっている
2人は、それぞれ、それらの食材にしても、一番安く、そして、品の良い物を、回りながら、効率よく、商品を、集めていく
「それにしても、夫人は、大丈夫でしょうか、我々に、気を使っているだけで、気苦労が、あるのでは」
ハナは、何か考え事をしながら、食材を、籠に入れていく
「ええ、そうね、でも、だれも居ないよりは、良い事があるかも知れない」
と、あいまいに、答えて、そのかごを、レジに、置いたのであった
夕食は、豪勢ではあるが、点でバラバラな食材が、並んでいる印象があった
夫人も、手伝ってはいたが、
非常に、個別に、料理をしているという印象が、2人には残った
窓から見えた、すすきは、きれいさっぱり、古い葉は、なくなり、隠れていた
白い木の塀が、見えるほどである
「それにしても、先輩方、きれいに、すすきを、狩り上げましたが
何処に、移動させたんですか]
カギリが、オムライスを、食べていたが、その手を止めて
「ああ、指示された通り、向こうの方へと、移動させておいたよ
ほら、奇麗なもんだろ、向こうの塀が見える」
「何処ですか、くろい壁しか見えませんけど」
っえ
驚いたような顔をしたカギリとは、対照的に
ネルジェは
「暗いから、白い塀が見えないのだろう」と視線を窓に向けて、首をかしげる
「お前、明るいところから、表を見ているから、黒く見えるだけで
あれは、明らかに、白い塀だ
見えるだろ、木製のだよ」
ハナも、遅れながらに、視線を、向けて、白い壁を、確認したようで
「夜目なのかな」と、首をひねっていた
夫人はと言えば、ぼんやりと、窓の方を、見ていたが
フランチェは
そうかも知れませんね
と、言葉を、濁しながら、まだ窓の方を見ていた
ラジオもテレビもない
この屋敷の中
静かな会話だけが、この部屋を、満たしていた
大通りでさえ、この街の賑わいは、夜になれば、鳴りを潜めている
別段、昼間でさえ、交通量よりも、歩いている人間のほうが多いような街である
一歩住宅地も、それも、閑静な場所となれば、虫の声が、時折、窓から聞こえる程度であろうが
ここは、更に、静かな場所らしく、其れさえも、この静寂のせいか聞き取りにくかった
「それでは、お風呂を、お先に、失礼します」
女子部員に、先立ち、男子たちは、庭掃除の後、直ぐに、お風呂を、及ばれしていた
食事の片づけを、男子たちが、しているさなか
もうお風呂が沸いていたので、もったいないと言う事で、先に、入ることになった
一番主である、彼女が、入るべきであろうという意見も、怪我に触るからと、拒絶されてしまった
「それでも、何か、手伝いが、必要であれば、一緒に、入りますが」
その言葉も、丁寧に、遮られ、彼女は、二階に、上がって行ってしまった
間接照明のような、薄暗い室内に置いて、ぽつりぽつりと、それぞれの部屋へと、帰っていく
客室は、一階にあり、風呂場は、比較的大きなものが、大理石で、こしらえてあった
「それじゃあ、おやすみなさい」
電気を、消しながら、2人の女子は、それぞれの部屋へと、帰っていく
その途中、何か、物音を聞いた、それは、どうも、上でもこの階でもなく
下から聞こえてい来るようであり
はじめは、部の誰かだろうかと、そう思ったが
周りには、だれも居なかった
ハナは、金髪の長身を探したが、もう部屋に入ったのか、その姿を、確認することはできず
一人、廊下に立っていた
それが、この家にいた住人であればいいが
しかし、もし、これが、不審者の建てる物音であれば、これは、問題を窮する
後から、気が付かなかったでは遅い
耳を、すませれば、しかし、その音は、どうも、下から聞こえてくる気がする
何かが、ただ単に、落ちただけだろうか、そう思おうとしても、それは明らかに、何かが動いていて、つまりは、誰かが居るように思えるのだ
そこで、ハナは、疑問に思った
もし、夫人のあの傷が、あの夫人自身が付けたものではないとしたら
ハナは、ぼんやりと、音の出所を、探ったが、やはり、下から聞こえる気がした
急いで、二階に上がり
夫人に、事の真相を、聞こうと
扉を何度もノックを、繰り返す
しかし、夫人は、そこには、現れず
横から、肩をたたかれた
「どうしたんです、ミス・ハナ」
ハナは、驚きながら、先ほどの異音について、聞くと
「ネズミでも、出たのではないか」と言われた
この場所には、地下が、あり、そこで、動いているのではないかと言うのである
一応、見てみた方が良いのではないですか
と、そう助言すると、夫人と、2人で、行ってみることになった
ライトを持った夫人は、2人で並んで歩きながら進む
地下室は、二階に、あがる階段の反対側にあり、鍵を開けて、中に入ると、古い家具や絨毯が、引かれ、一種の骨董品のような感じである
しかし、そこに、人影はなく、ましては、ネズミの姿を、確認することはできなかった
「もう寝た方が良いでしょう、明日日
も学校があるのでしょ」
夫人は、そう言うと、ライトを、照らしながら、もと来た方へと進む
ハナは、背後で、扉が閉まる瞬間、何か、それとは別の音がした気がしたが
ライトを持った夫人が照らす方向へと、連れられるように、進むしかないのであった
翌朝、台所での洗い物も、終わり
皆で、学校へと、登校していた
そんな折に、カギリが、口をついた
「実は、昨日、奇妙な、物音がしたんだが」
ハナは一人振り返った
すると、なぜか、自分一人ではないらしく、他二人とも目線があった
「布団で寝ていると、何か、物音が、する
その方向へと、目を向けると、箪笥があるんだ
何だろうか
私は、立ち上がると、その方向へと向かう、その間中何か音がしている
私は、その箪笥の扉に、手をかけようとしたその時、ゆっくりと、扉の方が、勝手に空いたんだ
中には、何も入ってはいない、ただの木のタンスだった
これは、単純な、気圧のせいだろうか
一晩中、こんなことが起きたんだ
君たちの部屋では、何か異変はあったかい」
皆が、それぞれ、話すが、どれも、確証足り得る物には、感じられず
ちょっとした、お化け物に思われた
「私も、昨晩、地下室から、物音がして、夫人と二人で行ってみたけど、何もなかったわよ」
「夫人に、わざわざ、手間を取らせて
しかし、あの屋敷は、もしかしたら、何か、幽霊のような、心霊現象が、あるんじゃないのか」
まさか、と、みな、口には出さなかったが、その妙な話を、無かったことにする
たんすの扉が、勝手に、開く。テーブルのボールペンが落ちる
電気が点滅する
これでは、古い家の特徴を、言っているような気もする
幽霊など、
非科学的なものを、信じるほど、怖い物はない
それこそ、夫人に、失礼だ
今日の午後には、彼女は、病院に、入院し
しっかりとした、治療を、受けることになる
その心配を増やすような真似は、絶対に、やめなければならない
それが、ボランティアであれば、なおさらなことではなかろうか
皆が、もう一度、病院で、落ち合う算段をしながら、校門前で、それぞれ、別れ、自分の学級へと、向かっていった
それは、二時間目の授業が、開始されたころ合いであろうか
向こうのほうで、一台の救急車のサイレンがした
四人は、それが、警察か、消防車か、救急車か
その違いを、考えながら、授業の黒板を見つめていた
しかし、それも、しばらくすると、大量のサイレンが、消防車だとわかった時には
先ほどの音が、やはり、救急車であることを、知ったが
それよりも、校内に流れる町の緊急連絡用の有線が
一軒のよく知った建物からの火災があったことを、知る
しかし、ボランティア部の面々は、少し、首を傾げた
救急車の音から、一時間ほどして、消防車の音がした
つまりは、時間が、それなりに空いているのだ
そして、もし、あの救急車が、夫人のものであれば、身の安全は、あるのかもしれないが
しかし、どちらにしても、心配事であることは、変わりない
授業は、直ぐに、終わり
四人はそれぞれ、職員室へ向かうと
扉を開いた
丁度、受話器を、おろそうとしていた
くすんだ、ブラウンの混じった金髪を浅く刈った
往年の教師が、生徒の顔を見て、手を上げる
よれたシャツのボタンは、一つ手首からして開いている
「おお、ボランティア部だな
ダルネル先生から、電話があった
ブランさんは、無事、病院に、搬送され、命に別状は、ないそうだが
ただ、聞きたいことがあるから、放課後、トーネル病院に、行くように、と
連絡があった、分かったな」
頭を、下げるが
「しかし、先生、何があったのですか、火事が、あったようですが」
教師は、首をひねって
「ああ、ただの火事であろう」
と、だけ、生徒に言う
フランチェは
詰め寄るように
「昨日、お邪魔した家なのです
何かあったか、心配で」
しかし、教師は、頭をかくばかりで
「有線で、知る以上のことは、僕にはな
ただ、火は、先ほど消し止められたと、言っていたぞ、良かったな」
何が良かったのかは、分からなかったが
皆で職員室を出た
放課後、急ぐように、病院へと向かい、先生の名前を出すと、直ぐに、一室へと、通された
扉が、それから、数分もしないうちに開いて
白衣を着た、先日と同じような、格好の医師が、現れた
職員室のあの恰好とは違い
清潔感が、何割が、ましてはいた
「すいません、何があったのでしょうか」
医師は、何やら、難しい顔をして、全員を、見まわした後
その、髭の生えた口を、開いた
「いや、実は、我々が、彼女の家に、入った時、奇妙なことに、彼女の左足が、無くなっていた
いや、まあ、実際には、あの腕と同じように、まるで、雑に、取られていた
我々は、布団の中で、血まみれになっている
彼女を見て、驚いた
それこそ、玄関を開けた時点で、血が、廊下を、転々としており
そんな中、うめき声があるから、二階へと、向かい、彼女の部屋のドアを開けたらしく
彼女は、そこで寝ていた
ただ、自分でやったのであろう
止血は、されていたが
我々が、到着が遅ければ、更に、大変なことになっていただろう
そのあとなのだが、緊急搬送されて、それこそ、救急車で、彼女を、連れていく予定で、いただから、それは、良かったのだが、彼女の緊急手術
の最中、火事があったんだ、彼女の家から、まだ、火災の原因は、分からないが
ただ、古い家だったから、漏電の可能性が、あるらしい
それで何だが、昨日、あの家で、何か、変わったことは、あったかい
何か、そう、不安定な状態だったとか」
皆は首をひねる
「確かに、口数も少なく、あまり、心を開いていただいていた状態とは、言えなかったかもしれません、ただ、もしかして、我々が、言ったからこそ、足を」
医師は、それを、手で止めた
「いや、それは、分からない、いま彼女は、安静な、状態だ、別段、危険な状況は、脱したと言っても良い
しかし、君たちは、何か、あの場所で、奇妙な事を、感じなかったかい
別の誰かがいたとか」
どういうことですか
カギリが、また続けようとしたとき
ハナの言葉が、響いた
「実は、昨日、物音がしたんです
それで、2人で、確認したのですか
そこには、何も、ありませんでした
地下室が、あったのですか
ただ、一晩中、音がして、どうしても気になり、
また、あの部屋に、行ってみたんです
暗い部屋でしたが
ライトが、ありましたので、それで、室内を照らしたんです
そんな時、埃臭い部屋の中で、奇妙なものを、見つけたんです」
「奇妙なもの」
医師は、首をかしげる
「はい、一つだけ、やけに、埃が積もっていない床を、見たんです
それで、怖くなって・・・」
医師は、急に、ため息をつく
「まあ、暗い部屋では、そう思うかもしれないし
夫人が、何か、掃除でもした後かも知れない
他には」
すると、ネルジェが、続けた
「その音は、私も聞きました
その晩は、あまり眠れず、ぼーっとしていたんです
すると、何か、音がして、見ると、机の上のボールペンが、床に落ちていたんです
それを、拾い上げて、また、布団に、戻ろうとしたとき、外で、話し声が聞こえたんです
それは、どうやら、夫人とハナさんのようでした
私は、布団に入っていると
どうもその足音は、下へと行くようでした
そのまま、眠ってしまったんですが、ある時、目を覚ますと、やはり同じように、下へと行く音が聞こえたんです
今この話を聞いて、それが、ハナさんだと思うのですが
私は、しばらく、目を閉じようとしましたが、どうしても眠れず、廊下に出ました
あの音はどこへと言っていたのであろう
そう思って、歩いていくと
丁度、足音のしたところに、地下室へと行く
扉があったんです
丁度良いところに、懐中電灯も、扉の横に置かれていましたから、私はそれを、手に取ると、中に、
入りました、部屋は、やはり、彼女が言った通り、骨董店のように、一昔前の家具や何かがあるようでしたが、しかし、そんな中に、彼女の気が付いた
埃の無い、箇所を見つけたんです、それは、所謂絨毯の端なのですが、
そこだけが、ずらしたように、木に埃が積もって居なかった
その四角いあとがきになり、私は、絨毯を持ち上げたんです」
その言葉を、遮るように、電話が鳴る
医師が、それを手に取ると
しばらくして、受話器を置いた
「夫人の邸宅の後から人骨らしき骨が、見つかったようなんだ
それで、絨毯のしたには、何があったんだい」
ネルジェは、言う
「それが、床に、直接
白い物で、魔方陣のようなものが、描かれていたんです」
結局その日は、ごたごたとしている感じで、また話を聞かせてほしいと言われ、四人は、病院を、後にしたのであった
「ねえ、部長、これは、一体何なのでしょうか」
何がだ、フランチェに対して、本当に何も分かって居ない風に、部長は、言う
「いえ、この場合、あの屋敷で、何があったと言うのでしょうか」
部長は、難しく、腕を組んで、顔を、しかめる
「たまたま偶然じゃないのか
あの地区は、家も古いし
それに、墓地の跡だって、可能性もある」
「でも、あんなに急に、火事になるなんて、やっぱり私たちが、あの場所に行ったせいで、夫人も」
「ねえ、ボランティア部として、彼女に、話を、聞いてみない」
部長が、それを遮る
「いや、手術の直ぐあとに、そんなことは、出来ないだろう
それに、何を聞くと言うのだ、彼女にとって、それは、幸福な事なのかい」
ハナは、俯く
それを、フランチェルは、慰めていたが
ネルジェが、それらを、遮るように
「でも、不思議な、事が、起こったのは、間違いはない
それは、人為的にしろ、錯覚にしろ、
まず、彼女の傷だ
あれは、誰がやった
はじめは、自分自身や、誰かに、やられたと思って居たが
しかし、手の欠損や、足なんて言うのは、尋常じゃない
それに、あの魔方陣も、気になる
それに、あの家に行ってから、妙なことを、みな、体験しすぎだ
あの家は、呪われているんじゃないのか」
まさか
そう、カギリが言うが
それを、真っ向から、批判しようにも、その材料も、批判対象が、空想しすぎて、分かりにくい
「そんな、非現実的なことが、ある訳ないじゃないですか」
フランチェは、背後から、そう言う
もしそんなものが、この世に存在していれば、もっとそれを有効活用した、現実世界を、見る事が出来ましょうよ、未知のエネルギーなんて、みなが、欲しがりそうなものです
しかし、現実に、無いのであれば、そんなものは、存在しえないからでしょう
現実的に考えて、床の文様を、見間違えた
金を、わたして、自分の人体の破壊を、頼んだ
もしくは、何かしらの器具を使ったとか
どちらにしても、深く考えすぎです
何もないところに、何かいるようなものは、何もない事の言い訳です
実際には、何もないのですから」
でも、ハナは、それを、遮るように
「でも、ちょっと、彼女に会いに行かない
私、どうしても、気になる」
カギリ部長が、おいおいと、止める中
彼女は、真逆の方向へと、走っていく
「どうしましょう」
フランチェは、背後を見ながら、自分も行くべきかどうか迷っているが
しかし、部の最終責任はみな、この痩せ男に、掛かっているような気もする
ネルジェはと、言えば
珍しく、塾とは言わず、ぼんやりと、後ろを、見つめているのであった
「しかし、これは、犯罪だと、僕は、思いますよ」
四人は、今、ハナのおばあさんが、入院している病室にいた
先週から、検査入院を、しているのだと言う
「でも、深夜だからと言っても、見回りがありますから」
先ほどから、部長は、文句を、続けてはいるが、それでも、ここには、留まっていた
「部長も、そろそろ、口を、閉じてくれませんか、もし誰か来た時、足音がわからないじゃないですか」
それに対しても、ハナが、見回りの時刻を、看護師、警備員両方のものを、把握していた
「それにしても、用意が、良いですね、先輩は
それは、いつもしているんですか」
フランチェの質問に
ハナは
「うん、夜中に、気になったときとかに、おばあちゃんに、会いに行くにはこれくらいしないと」
三人は、黙ったまま、時間を待つ
深夜と言うのは、いささか早いが、時刻は、十時を、回っていた
それぞれの、親御さんには、部の活動と、言ってあった
それで、容認されるのだから、奇妙な、歴史のある部活動である
「いまなら」
ハナの掛け声とともに、皆が、事前に、調べていた
夫人の病室へと向かう
面会謝絶の文字が見え
やはり、やめておこうかと言うような、顔を、カギリの眼鏡越しに、見受けられる
顔を見合わせるような中
曇りガラスの向こうで、人が動く音がした
それは、小さな声であり
何事かと、ガラスを見るが、曇っていて、その全容は、見えないが、しかし明らかに、誰かが動いている
幸いにして、扉には、鍵は、かけられておらず
ゆっくりと、開いたドア
その隙間からは、女性が一人、松葉づえを、不格好に、付きながら
月明かりに、照らされて、立っている背中が見えた
しかし、奇妙なことに、なぜか、辺りには、煙が立ち込め
ぼんやりと、彼女の周りを、動いているように見えた
「火事か」
小さな、カギリの声が、聞こえたが、それは、夫人には届いていないようであった
しかし、どうも、その彼女の前に、その煙の重点は、あるようで、その靄が、周りに、あふれているように、四人には、見えた
彼女の背中姿ではあったが、どうも、彼女は、ないているようなふうにも、四人は感じられた
それは、小さな上ずったような、ひきつったような声であり
嗚咽のような、哀しみを、感じられた
彼女は、それを、いとおしそうに、撫でたとき、その煙の中に、明らかに、赤ん坊のような
それは、人間としての質感が、ありありとわかった
「まさか、息子さんじゃ」
ハナのつぶやきのその直後
彼女は、ベッドの上のテーブルに置かれていた
その台から、何かを、取り上げると
それを、掴み、目の前の煙のその何かに、突き刺した
それは、明らかな、何かを、発声し、煙は、霧散したように、消えていった
しかし、月光に照らされた
そのナイフからは、明らかに、赤い
血のようなものを、四人は見たのである
彼女のおろした、その腕は、松葉づえに、支えられたように、だらりと、下がり
その刃物からは、黒いしずくが、ぽたぽたと床に落ちた
皆、驚いたように、扉を、慎重に、絞めると、場所を、後にした
「あっあれは、なんだったんだろう」
ネルジェが、病室に、戻り、そう、口にするが
誰も答えられない
しかし、ハナが
「もしかすると、息子さんを、呼び出そうと、していたんじゃないかしら
彼女は、それで、体を、生贄に捧げて
でも、やっぱり、それは、まずいと思って、自らの手で」
フランチェは、そんなことは、無いと思うと言うが
しかし、実際、妙なものを見てしまっている
あれが、何かしらの、ステージ、映像作品であれば、そう言うものだとわかるが
しかし、実際問題、あの時あれが行われたのは、たまたま、我々が見ただけであり
そうなると、あれをする理由にはならないのではないか
と、カギリに、そう言われると、珍しく、言い返すこともできなかった
「でも、そうなると、あの家の人骨は、その生贄に」
フランチェは、青ざめて、そう言うが
誰も、その答えを、言えるものは、居なかった
「今日は、もう、帰りましょ
いえについて、入れない人が居たら、わたしに連絡して」
ハナが、
そう言う言葉を最後に、みな、何も言えず、病室を、後にした
次の日、学校のボランティア部の部室に、皆の姿は、無かった
一人、欠けていたのだ
実際には、昨日ネルジェが、何者かによって、殺されたのだ
そのせいで、学校は、一時、パニックのていを、示していた
「おい、ハナ、何があったか、知らないか」
顧問の先生は、まだ、捜査中で、分からないと言うし
一番、うわさに精通している彼女も
私にも、ただ、何者かが、忍び込んで・・・・」
その日、部活は、何もせず、ただ、いつ頃、葬式になるのか
いつ、彼の家に行くか、そんな話が、ぽつりぽつりと、浮かび上がっては消えていった
その次の日、町では、パトカーが走り回り
学校に、生徒が、付いた時には
ハナ クランベルが死んだと言う
話で、もちきりであった
警察のこともあるし
なおかつ、昨日の今日であり
うわさは、辺りに、充満し
何か、殺人鬼のようなものが、この街に入り込んだのではないかと、そうもっぱらのうわさを、示していた
「おい」
廊下で、カギリは、フランチェを、見つけると、声をかけた
「お前、大丈夫か」
フランチェの肌は、青白く、冷めていた
「ええ・・ええ・」
その言葉は、震え、意味をなしていない
それはそうだろう、今まで、友達だったものが、死んだのだ
そして、それは、どうも、この部活に関したものが
二日で二人
これは、明らかにおかしい
友達の死とともに、明らかな、異常が、何か、意味もなくそこに存在している図は、非常に奇妙だ
「そんな事、こんな事、ありえない
非現実すぎる
あんなことは、全く違くて、そう、彼女が、何か、誰かに、依頼して、そうよ、あんな体で、どうすることもできないんだもの
それに、あんな奇妙な事を、それに、人骨だって」
じっと、目を見て、落ち着けと、促す
「僕も、考えてみたが、あの骨は、きっと、旦那さんや、自分の足や腕だった可能性だってあるじゃないか、それに、こう言っては、何だが、たまたま、と言う事も」
彼女は、振り切るように、歩き出す
「今夜、彼女のもとに、行ってみないか」
彼女は、人ごみの中、一人、立ち止まっていた
ハナから聞いた、病院で、誰も来ない場所に、2人は、潜み
まだ入院中の彼女のもとに、彼らは、時間を、みはからって、歩き出した
誰にも会わず、誰も来ない、時間帯
明かりだけが、わずかに、足元に、光っている
「ここね」
相変わらず面会謝絶の文字が、2人の目には見える
いつも、残りの2人がいた場所には、今はいないが、その実感と言うのが、全く沸いてはこない
しかし、扉を開けた瞬間
それらは、どこかに、霧散したように、その違和感は、全てが、ここに集結しているように、2人には感じられた
中に入ると、夫人は、起き上がり、ぼんやりと、壁のほうを、まっすぐ見ていた
「すいません、こんばんは」
悲鳴を、あげる訳でもなく、彼女は、そこに、ベッドの中で、体だけを、起こしていた
声をかけたとき、その首は、彼らのほうを、向いてはいた
彼女に、最初に、声をかけたとき
彼女は、それに、答えることもなく
等々と、喋り始めた
「全ては、警察が悪いのよ
いや、この私たちから、全てを奪った
あの車も、全てが、全て
でも、そう、でも、もう大丈夫なのよ」
2人は、顔を見合わせる
「何のことでしょうか」
カギリは、尋ねた
「私たち、夫婦が、あの場所に、引っ越してきたのは、もう、三年ほど前
あの場所は、もともとは、墓地だったのよ、その上に、あの場所は、住宅地として、建てられた
その墓地も、かなり、古いもので、今の地図では、そんなものは、出てきもしない
でもね、それが、私たちには、重要だった、その為だけに、あそこにいたと言っても良い
全ては、整っていたの
三年も、念入りに準備は、果たした
だから、失敗なんて、ありえなかった
そう、ありえない
私たちの幸せを、あんな形で、奪われるなんて、私には、絶対に、耐えられなかった」
何のことですか、フランチェの言葉は、彼女の言葉で遮られた
「息子が生まれたとき、私は、非常に、喜んだ、夫だって同じだった
でも、全ては、狂わされた
私が、仕事から、戻ってくると
警察から、電話が、掛かってきた
でも、それは、私たちを、守る話ではなかった
全ては、事後で、しかも、酷い状態だから、見せられないと
本当に、ありえなかった
司法解剖の後、火葬された遺骨だけが、私のもとへと、届けられた
私は、警察に、忍び込んで、何とか見ようとしたけど、とめられてしまった
そう、その次点で、私の私の幸せは、全て、潰えてしまった
でも、私は、あきらめることはできなかった
ここまで来て、そして、最高の理解者を、失った今
何もかもが、無くなってしまった
無くなり、奪われた
私は、私は、行う事にした
息子を、赤ん坊を、もう一度、生き返らせることに」
そんなことは、ありえない、そう首を振るフランチェと、カギリの沈黙の中
声は、病室に、淡々と、狂ったように響いた
彼女は、どこか、ほっとしたような、笑みを浮かべながら
それが何なのか、分からなかった
「私は、それを、得るために、手を、生贄にしたけど、意味はなかった
煙が、少し出たくらいで、量が少ないと、私は思った
本には、確かに、描かれてはいたけど、読み間違いの可能性もある
私は、その実行を、しようとしたとき
あなたたちが現れた
これは、非常に、問題だった
これさえ邪魔をされてしまえば、私には、何も、残ってなどいない
もし、これが、バレてしまえば
私は、急ぐことにした
あなたたちが去ったとすぐに
左足を、切断した工具を使えば、さして、難しい事ではない
私が、止血して、布団で休んでいると
連絡通りに、彼らは、この家に、来た
そして、運ばれた
その日のうちに、私は、最後の実験を、繰り返した
そして、今度は、無事成功したの
そして、生まれた赤ん坊の血を、得る事が出来た
その心臓と引き換えに
肉親で、そして、赤ん坊の血
私は、ついに、あれを、呼び出すことが、出来た
あなた方には、悪いけど、もう、あれは、動いている
あの家にあった、魔方陣は、家を、出る時に、仕掛けていた装置で、焼き払った
これで、あれを、あの家に、閉じ込める枷は無くなった
でも、あれを、自由に、すると言うことは、その近くにいた物は、自分を、閉じ込め、苦しめていたと思うでしょうね
だから」
何の話ですか
カギリは、叫んだ
その時、彼らの背後で、ゆっくりと、扉が、開く音がした
「悪魔は、来るんですよ」
何を言って・・・
振り返った2人
その扉に、手をかけて、ゆっくりと、開くのを見た
ただ、その手は、細く、そして、真っ黒い色を、していた
あかんぼう イタチ @zzed9
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