第3章
第20話 姉妹の約束
……どうしたものだか。
自室のベットにうつ伏せになりながら、そんなことを思っていた。
俺は今日、二人の女の子から告白された。
人生、こんなこともあるんだなぁ……。
――一之進先輩のことが好きです!
――下野君のことが多分、す、好き……なんだと思う……!
二人の言葉が頭の中で反響する。
思い返す度に胸が高鳴る。
これでもかというほどのアドレナリンが脳に送られてきて、今日は興奮で寝れそうもない。
が、それと共に罪悪感がやってくる。
俺は有澄さんか鞠亜、どちらかを選ばなくてはならない。
二人に返事を待たせてしまっている状況である。早く返事をしなくてはならない。
幸せな気持ちと、焦燥感が混じったような、複雑な気持ちに苛まれていたその時――、
――ピロン
ラインの通知音が鳴る。
……後で見ようか。
――ピロン
寸秒後、また通知が鳴る。
……誰だろうこんな時間に。
仕方がなくゆっくりと上体を起こし、スマホを確認すると、
「――っ!」
有澄さんと鞠亜、二人からメッセージが来ていた。
⚫︎
その日の夜、及川家にて――。
そこには異様と言える雰囲気が漂っていた。
「……なにがあったのかしら」
母・及川
有澄と鞠亜がそれぞれやり切った、みたいな雰囲気で頬をゆるめている。
が、ふと二人の目が合うと――バチッ、と火花が散る。
「……本当に、なにがあったのかしら。……いやほんとに」
ついこの前まで仲良し姉妹だったのに、今では水と油、ハブとマングースとも言えるほどにギスギスしている。
文佳が二人に声を掛けようか迷っていた時。
「鞠亜」
「お姉ちゃん」
二人が同時にお互いを呼び、声が重なる。
バチバチっ!
「……お姉ちゃん、話がある」
「……上で話しましょ」
それだけ言って、二人は最終決戦に向かうかのようにリビングを後にする。
――これは凄い展開になってきたわね……。
文佳は二人の様子をじっくりと見て苦笑しながら、「……一之進くんだっけ」と小さな声でささやいた。
⚫︎
有澄の部屋で、有澄と鞠亜は対面していた。
二人とも、目を合わせようとはしない。
そこにはお互いがお互いをさぐり合うような、居心地の悪い空気広がっていた。
「……お姉ちゃん、どっちが勝ったって恨みっこなしだからね」
鞠亜が沈黙を破るように切り出す。
「……うん」
二人、見つめ合う。
だが、二人ともその瞳には不安の色が揺らいでいた。
――一之進先輩はお姉ちゃんの事が好きだから……考えてくれるとは言ったものの、すぐにお姉ちゃんの方に行っちゃうかもしれない……。
――鞠亜と下野君仲いいし、私はまだあまり下野君と話したことのないし……。鞠亜の方にいっちゃうのかな……。
二人とも一之進が自分を選ばないのではないか、という不安に駆られていた。
「お、お姉ちゃんはこれからどうするつもりなの……?」
「い、いや特に……ま、鞠亜は?」
「わたしも別に……」
もう、六月の終盤。
テストが終われば夏休みだ。
そのため、企図して予定を作らない限り基本的に一之進と会うことはなくなるだろう。
「……抜け駆けは禁止だからね」
「……ぬ、抜け駆けって?」
鞠亜は押し黙る。
「そ、そんなこと言って自分だけ下野君に会うつもりじゃないよね……?」
「…………」
「……絶対そのつもりだったじゃない!」
有澄は思わずツッコむ。
「じ、じゃあさ、ルールを決めない?」
「ルール? どういうの?」
「うーん……例えば、お互い一回ずつ下野君に会うとか?」
「なるほどね……。お互い一回ずつデートに行くってことかぁ……」
「デ、デート!?」
「……え、そういうことじゃないの?」
「デ、デートっていうか……おでかけ?」
「それはデートじゃん!」
鞠亜の言葉を聞き、有澄はハッとして顔を赤らめる。
「でも……いい案だと思う。このままじゃ……いや、一之進先輩と会いたいし」
「うん……」
夏休みに一之進に会いたい、という利害が一致したことで、話がまとまってくる。
「あのさ……多分一之進先輩はめちゃくちゃ優しいし、わたしたちのことを思ってくれるから、今もきっといろんなことを考えてくれてると思うの」
「……そうね」
「だからさ、夏休みが終わるまでって、期限を決めてもらわない?」
「……え?」
「一之進先輩はわたしたちのことを考えて、急いで答えを出そうとするんじゃないかなって思って。そんな焦らせちゃって一之進先輩を追い詰めたくないから……」
「……そうね。ゆっくり考えてほしいし……。いいと思う」
「分かった。じゃあ決まり」
「うん。約束ね」
姉妹間で、一之進とそれぞれ一度デートに行くこと、そして夏休みまでの期限を設けることが決められた。
「じゃあ一之進先輩にラインでデートの日程きいてこよっ!」
「え……? わ、私もっ!」
姉妹であり、恋敵になった二人。
もうすぐ、夏がやって来る。
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