第19話 新たなストーリーへ
「俺は……及川さんのことが好きな人だ!」
――。
「「「「…………えっ?」」」」
有澄さんを囲んでいた男たちに、俺は魂の籠った言葉を言い放つ。
が……、なんかしらけてる?
「……ど、どゆこと?」
男子生徒の一人が、ぽかんとした顔で聞いてくる。
「だから、俺は、及川さんのことが好きなんだ!」
誰、って聞かれたから……今までずっと俺と有澄さんの関係は、俺の一方的な片思いである。
非常に複雑な関係ではあるが、もうすでに告白して振られている。
「……えぇ」
「そこは普通この女のカレシって言うところなんじゃ……?」
「なんかこいつ目がマジだぞ。ちょっとやばいやつなのかもしれない……」
男子生徒たちが……若干引いてる。
なんかめっちゃ冷たい目を向けられている気がする。
「……い、行こうぜ」
「お、おう……」
男達は互いに目を合わせ、退散することを決めたようだ。足早に目の前から去っていく。
……いや、そんな避けるみたいにしなくてもいいじゃん。漫画の主人公みたいにかっこよくナンパを追い払いたかったのに。
まあ、結果オーライではあるか。
「……し、下野君!」
そこには顔を紅潮させた有澄さんがこちらを見つめていた。
「……あ、及川さん」
……気まずい雰囲気が流れる。
……見切り発車だったが、よくよく考えれば思い切り過ぎたかもしれない。
もうすでに有澄さんに想いは伝えてるとしても、公開告白みたいなことをしてしまったわけだし。
でも……俺は不器用で、一年間こんなようなアピールしかできていなかった。
話し掛けて逃げられ、告白して逃げられ。
ずっと俺は、こうやって有澄さんに迷惑をかけ続けてきたのかもしれない……。
「変なこと言っちゃってごめん!」
慌てて謝る俺。
「ほんと、いきなり何言ってるんだって感じたよな。今までもずっと一方的に変なこと言って……」
あぁ、せっかく最近少しは話せるようになってきたのに、また嫌われてしまう……。
だが、焦っていた俺に有澄さんは――、
「い、いや――嬉しかったよ……!」
「……えっ!?」
俺は思わず目を見開く。
呆然とする俺に、有澄さんは赤い顔を下に向け、続ける。
「今までいつも恥ずかしくて逃げちゃってたけど……ほんとはいつも話しかけてくれて、嬉しかったよ……!」
「……っ!」
有澄さんの言葉に、声が喉を通らなくなる。
「この前の校外学習でも助けてくれて、今日も助けてくれて……いつもほんとに……」
有澄さんは下を向いていた顔をこちらに向け――、
「ありがとう……!」
全てを魅了するような笑顔で言った。
「お、及川さん……!」
ドキドキ、と胸の鼓動が聞こえる。
二人きりの静かな空間。
一メートルほどの距離で、見つめ合う俺と有澄さん。
有澄さんの真っすぐな瞳に吸い込まれそうな感覚になる。
まるでそこは時が止まっているようで――
「ちょっと待ったぁぁぁーーー!」
突然、鬼気迫る声が響く。
「ま、鞠亜……!」
「お姉ちゃん! 帰りが遅いと思ったら、何やってんの!?」
そこには、顔を赤くしむくれた表情で頬をゆらす鞠亜がいた。
「ま、鞠亜っ、邪魔しないで……!」
「ちょっと! それどういう意味で言ってんのっ!?」
鞠亜は勢い込む。
「っていうかお姉ちゃん、この前わたしと一之進先輩がお弁当を食べてるときに邪魔してきたんだからお相子だからね!」
「……そ、それとはわけが違うもん」
「一緒だよ!」
姉妹喧嘩(?)がヒートアップしていく二人。
「わたしは……一之進先輩のことが好きなの! 邪魔しないで!」
「……っ!」
鞠亜の言葉に思わず息をのむ。
「わ、私は……私だって…………」
有澄さんは目を強く瞑って言い放つ。
「――下野君のことが、す、好き…………なのかもしれない!」
「え、えええぇぇぇ!?」
い、今なんてっ!?
「くっ……! ついに……」
苦しそうにつぶやく鞠亜。
有澄さんが……俺のことを……!?
「最近下野君のことを考えるとドキドキして……これはきっと……!」
不安の中に意思を宿した瞳で、有澄さんは言う。
「――わ、わたしはお姉ちゃんが一之進先輩のことを好きでも! 一之進先輩のことが好きです!」
ま、鞠亜まで……!
「ま、待って……! 気持ちが整理できてないけど、私も……私も! 下野君のことが多分、す、好き……なんだと思う……!」
俺のことを真っすぐ見つめる、二人の女の子。
人生で一番と断言できるくらいに激しく胸が鼓動する。
……いつの間にこんなことになってしまっていたのだろうか。まさか、有澄さんも俺のことを好きでいてくれているなんて……!
俺は鈍感系って言われてしまうのだろうか。
今までずっと好きだった有澄さん。
俺のことをずっと好きでいてくれる鞠亜。
どちらも俺にとって大切な存在だ……!
でも、俺のこの中途半端な態度がこんな状況を生み出してしまっている。
二人の心を、俺の気持ちで振り回すなんてことは、あってはならない。
だけど――!
「……ごめん!」
俺は勢いよく頭を下げる。
「ほんとにごめん! 少しだけ考える時間をくださいっ!」
祈るように、言葉を紡ぐ。
「正直今冷静でいられなくて……! 二人の気持ちを、今のはっきりしない気持ちで答えるのは失礼だから、しっかり考えて答えさせてもらいたい!」
こんなこと、言っていいのか分からない。
でも、俺のことを少しでも好いてくれている二人の気持ちを適当に扱うことはできない!
そんな俺に、二人は――。
「……一之進先輩のそういう誠実な所も好きなんです」
鞠亜はどこか安堵したように微笑む。
「わたしの気持ちを、考えてくれてありがとうございます。今すぐに答えを出さなくてもいいですから! じっくり考えてください」
「下野君、私も……まだ心が整理しきれてなくて……時間を使っていいから……か、考えてくれると嬉しいな……!」
有澄さんも、照れたようにはにかみながら言った。
下校時刻を過ぎた学校の、三人以外誰もいない階段の踊り場。
こうして一つのストーリーが、新たなステージへと進んだ。
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