第15話 やられたらやり返す

『――ンカーンコーン』


 ――はっ。


 謎の音とともに目を開けるとそこは異世界――なんてことはなく、気が付くとチャイムが鳴り、四限の授業が終わっていた。


 しっかり寝てしまった。


 色々あった校外学習の翌日。きっと疲れが溜まっていたんだろう。足とかめっちゃ筋肉痛だし。


「おーい下野ー、飯食おうぜー」


 いつものように佐藤が声をかけてくる。


 昨日は校外学習という圧倒的非日常だったが、イベントが終わると何事も無かったかのように日常が再開する。なんかちょっと寂しいけど。


 ――俺は、そう思っていた。


「おう、購買行こうぜ」


「おっけー。そういえば下野、校外学習どうだった――」



「――一之進先輩!」



 教室の後ろドアから響く、明るい声。


 どうやら、まだ少し非日常は続いていたらしい。


「ま、鞠亜!?」


 そこには、人懐っこい笑顔の鞠亜がいた。


 ……なんで?


 突然響いた聞き慣れない声に、若干教室がざわめく。



「……あのかわいい子だれ?」


「……ちっちゃいけど、デケェ」


「え、なんであの下野が……」



 鞠亜にセクハラするんじゃねぇよ!


 あとあの下野ってなんだよ!


 一部非常に文句をつけたい奴らもいるが、大半はなんだあのかわいい子、みたいな好意的な言葉だった。


「おい下野、あの子誰なんだ?」


「佐藤、ちょっと説明すると長くなるから後で話す」

 

 俺はざわめきが大きくなる前に、佐藤を制して小走りでドアの近くにいる鞠亜のもとへ行く。

 そして、教室の前では人目に付くので少し離れた廊下に手招いた。





 比較的ひと気の少ない廊下にて。


「どうした鞠亜、なんかあったのか?」


 わざわざ先輩の教室に来るまでの用事があったのだろうか。

 いや、先輩の教室に行くってなんか異様に緊張するじゃん。


「一之進先輩、昨日はいきなり電話してごめんなさい」


 俺が聞くと、鞠亜は少し赤い顔の上目遣いで続ける。


「――あの、一之進先輩、お弁当作ってきたので一緒に食べませんか?」


「お弁当!?」


「はい!」


「な、なんでまた急に……」


「……まあ、いいじゃないですか!」


 こちらを見つめる鞠亜の目には、どこか強い意志があるように感じた。


 ……もしかしたらなんでまた急に、と聞くのは野暮だったかもしれない。


 昨日、校外学習中の電話で俺が有澄さんのお弁当をもらったって言ったから……。


 きっとそれに関係しているのだろう。



『わたしは、一之進先輩のことが大好きです!』



 昨日の電話での会話を思い出し、胸がドキドキしてしまう。


「……食べてくれませんか?」


「お、おう……! ありがとう」


 どこかからくる緊張で、思わず声が口篭ってしまう。


「ほんとですか! じゃあ行きましょう!」


 俺と鞠亜が歩き出そうと前を向くその時――神様のイタズラなのだろうか――、


 ふと、有澄さんが廊下を通りかかった。


 廊下の端にいる、有澄さんと目が合う。


 有澄さんはやや呆けたような顔で、じっとこちらを見ていた。


「ほ、ほら! 行きましょう!」


 有澄さんの存在に気付いた鞠亜は、焦るように俺の腕を引く。



 鞠亜に連れられながら、頭に有澄さんのあの表情が残像のように残っていた。

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