第13話 ヒロインと……

「なんかどっと疲れたな……」


 太陽が真上を過ぎた頃。


 俺と有澄さんは公園内の影にかかったベンチに座って、ぐったりとうなだれていた。


「……し、下野君、色々本当にごめんね」


「いや、間違いなく及川さんは悪くないから大丈夫だよ」


 ……いやー、ここまで色々あったな。


 簡単に振り返ると、獣道をくぐりぬけ、池に飛び込んで、好きな人のお弁当を食べている所を他の女子たちに見られた。


 ……いや、流石に色々あり過ぎでは?


 有澄さんとペアワークってだけでも、とんでもない大事件なのに。


 ちなみに俺が有澄さんのお弁当を食べている現場を見て、おそらくよからぬをしていた女子たちには、ちゃんと今日起きた一連の出来事を話した。色々ありすぎたのでうまく話せたかはわからないが。


 女子たちは温かい笑顔を浮かべながら話を聞いてくれて、一応はちゃんと俺が有澄さんの弁当を食べていた理由を理解してくれたみたいだ。


 とりあえず想定できる誤解はとけた……はずである。


 しかもそれだけでなく、女子たちは非常に困っていた俺たちを見かねて、たまたま一人の子が持っていた予備の割り箸をくれたり、有澄さんに自分たちのお弁当を分けてあげたりしてくれた。


 さすが有澄さんのお友達、いい人たち過ぎる。


 その後俺は有澄さんのお弁当をいただき、有澄さんも友達から分けて貰ったお弁当を食べ、今に至る。波乱万丈の校外学習もようやく落ち着いてきた。

 ちなみに有澄さんのお弁当はめちゃくちゃ美味しかったです。幸せです。


「色々あったけど、とりあえず全部いい感じにまとまってよかったな……」


「そ、そうだね。発表もきっとうまくいくよ……!」


 有澄さんとのペアワーク。


 最初はどうなるかと思ったけど、結果的には……すごく楽しかった。


 ずっと遠くから眺めることしかできなかった有澄さんと初めて一緒に行動して、有澄さんの知らない一面も見れた。


 一緒にいて、ドキドキすることがいっぱいだけど、それ以上に楽しくて……もっと有澄さんと一緒にいれたら幸せなんだろな……。


 もし本当にだったら……なんて思ってしまう。


 やっぱり俺は……――、


「し、下野君っ!」


「うん……?」


 有澄さんの透き通る声が響く。


 有澄さんは――暑い気温のせいか――どこか赤い顔をしてこちらを見つめていた。


「あ、あの……今日一日……下野君と一緒にペアで行動して……」


「……」


 突然、さっきまでとは少し違う雰囲気になる。


 有澄さんはそのまま続ける。


「そ、その……本当に――」



『~~~~♪』



 有澄さんの声を遮るように、俺のスマホの着信音が響いた。


 なんだこのえぐいタイミングに! 今ではないだろ!


 これで佐藤の暇電とかだったら一生恨むと思いながらスマホを確認すると……、


「……えっ?」


 スマホの画面には――、



『及川鞠亜』



 の四文字が光っていた。

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