第11話 男の憧れ

 ジリジリと地を照らす太陽の光の下。


「ほ、本当にごめんなさい!」


「いや、全然大丈夫!」


 俺は有澄さんの平謝りを受けていた。


 及川さんを守ろうとして俺が池にダイブした後、昆虫池から引き返し公園の広場のベンチに来ていた。


 幸い池はそこまで深くなく、無事――ではないかもしれないが、しっかり生還することができた。


「だって……、服もだし、荷物も結構濡れちゃって……」


「いや、ほんっとうに大丈夫だから!」


 ちなみに着ていたジャージはびちょびちょになってしまったので、上下制服に着替えている。下着に関してはごり押している。


「うぅ……ごめんね……」


 有澄さんは本当に申し訳なさそうに言う。


 有澄さんを助けるために多少の傷を負うなんて本望だから全く気にしていないのだが、聖人である有澄さんはやはり負い目を感じてしまっているのだろう。


「まずまず俺が勝手にダイブしただけだし、ほら、荷物だってそこまでダメージ受けてないから!」


 俺は有澄さんが責任を感じないように務めて明るく言う。


 飛び込み後のリカバリーも割とうまくいったので、多少浸水している部分もあるが、リュックが完全にご臨終となるのは回避できた。

 それこそ大きなダメージといえば幾分気持ちが悪いパンツくらいだ。ちょっと我慢すれば全く問題ない。


「そんなことよりも、お昼食べない? いい時間だし!」


 ちょっと暗い雰囲気になってしまったので、ここはご飯でも食べて空気を変えよう。

 多少なりとも元気になってくれるかもしれない。

 

「ご飯はーっと……――っっ!」


 昼飯の入ったビニール袋を取り出し、思わず息を飲む。


 リュックの下層に入っていた、朝買ったコンビニ弁当は――激しく動いたからだろうか――蓋が開き……、中身がビニール袋の中で散乱していていた。

 そして、トドメと言わんばかりに、池の水が侵食している……。


「わ……わっ……」


 有澄さんが泣きそうな顔で声にならない声を発する。


「だだだ、大丈夫だから! 昼ご飯くらい食べなくても全然大丈夫だし! 頼むからそんな悲しそうな顔しないでくれ!!」


 元気付けようとしたらまさかの逆効果じゃねぇか!

 なんでここまで裏目にでるんだよ!


 どうしたものか、と焦る俺。



「下野君……ごめんね……。……私のお弁当、食べてっ!」



 有澄さんは、やや潤んだ瞳で言った。


「……え!?」


 アリスサンノ、ベントウ?


「いや、申し訳ないよ! 流石にそれは申し訳ない!」


「私の方が申し訳ない気持ちでいっぱいだから……そうしないと私の気が済まない……! 食べて……?」


 破壊力抜群の上目遣いについたじろいでしまう。

 俺が有澄さんのお弁当を食べるなんて……、申し訳ないしなんか気恥ずかしいし……!


「あ、あんな山道を歩いたんだし、お腹減ってるでしょ! 」


「そ、それはこっちのセリフでもあるよ……! それに、私そんな食べるほうじゃないから……! 公園を出たらすぐコンビニとかもあるから大丈夫だし……!」


「いや、お昼食べないと体に悪いって聞くし! 大丈夫だって!」


 申し訳なさと恥ずかしさから断固拒否している俺。ここまで来てチキンでほんまごめん。


 そんな俺に有澄さんは、表情を曇らせて下を向き一言。


「もしかして……嫌かな……」


「――っ!」


 ――そんな訳ないっ!


 いや、有澄さん好きな子の弁当を食べたくない男なんている訳が無い!

 有澄さんのお弁当と叙々苑どっちか選べといわれても、ノータイムで有澄さんのお弁当を選ぶ!


「私のお弁当、手作りだし嫌だよね……。ごめん」


 アリスサンノ、テヅクリベントウ……?


「いや、全っ然嫌じゃないよ! 本当に心から食べたいくらいだよ!」


 好きな子の手作り弁当とか、全男子の夢か!


「じゃあ……食べて……?」


 ……こんなの断れねぇよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る