第15話

 風を切るように走る。

 血管が張り裂けそうなくらいに怒りがこみ上げていた。


『時間的におそらく敷地内にいるよ。場所は』


「もうわかってる」


 感情が高ぶったせいか、僕の感覚は鋭利に研ぎ澄まされていた。

 校舎の二階には開かれた小規模の多目的ホールがある。そこに複数の人間の気配を感じていたのだ。


『お兄ちゃん、戦う際は調心だよ。でないと動きが鈍る』


「ああっ」


 階段を五段飛ばしで駆け上がり、目的の場所へ向かう。近づくほど女性の悲鳴が鮮明に聞こえてきた。


「夕里亜っ!」


 到着すると同時に僕は叫んだ。そこは複数の男が女子たちを襲っている現場だった。男達はオールラウンドスーツこそ脱いでいなかったがマスクは外していた。


「て、哲己? ……哲己っ!」


 一番奥に夕里亜の姿を見つけた。

 男二人に組み倒されて服が乱れている。殴られたのか左頬が腫れていた。その近くには半裸状態の佐久間さんもいた。

 

 男達が異国の言葉で怒鳴り散らし、銃を取る。

 不意をつかれたせいかその動きは遅かった。体中の血液が沸騰するかのように感じた。けれど、夕葉はそんな僕の血管に氷を流すように淡々と状況を分析する。


『全部で八人か。さっきみたいな手緩いやり方じゃ間に合わないよ。全員、確実に殺してっ』


「そのつもりだっ!」

 

一気にその場に踏み込んでいく。男たちが銃を構え、発砲に至るまで数秒。おつりが来るくらいだ。


 僕は大きく跳躍し、近くにいた男を無視して夕里亜に馬乗りになっていた男の近くに着地する。同時に男の首を手刀で叩き折った。続けて、振り返る。夕里亜の両手を押さえていた男だ。僕はそいつの片目を中指で突き刺しながら、頭蓋骨を両手で掴んで首の骨を捻り折った。

 

 人体の急所は腐るほどあるが、素手で即死に至らせるものはほとんどない。だから死に直結するものは限られる。

 

 それは首と眼だ。

 間髪入れずに一人また一人と首、頸椎を完全に粉砕させる。銃の引き金はおろか声も上げさせるつもりはなかった。瞬時に男七人を絶命させるが、最後に残った男は無様にも階段の方へ逃げ出していった。

 

 僕はそれを追いかけ階段の踊り場で後ろ襟を掴むとそのまま壁に叩きつけた。間髪入れずに正面からそいつの首を掴む。握力で首を締め上げると、何か知らない言葉をしゃべっていた。その苦悶の表情から命乞いをしていることは明らかだ。


「自分が死にそうになったらこのザマか。ふざけやがって」


 全身全霊で男の身体を地面に叩きつけた。

 それだけで死んでいそうだったが、勢いよく首を踏みつけるように叩き折った。皮と肉だけで繋がった頭部がだらんと下がる。見た目は日本人と同じように見えるので人種は同じなのだろう。いずれにせよもう関係のないことだ。


 ことが終わって膝をついた。息切れと動悸が酷い。全身も小刻みに震えていた。


『怒りはちゃんとしまって、調心出来てたね。まぁ合格かな』


「お前は全く動じないな」


 右手を押さえる。きっとこの震えは命の重さからきているのだと思う。どんな人間であったとしても僕は人を、命を殺したんだ。


 僕は奮い立たせるように身体を動かし、夕里亜のいるところへ駆け寄った。

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