第13話

 バババンッという爆竹の音を炸裂させたような音が遠くで何度も響く。

 

 小気味良く聞こえる音と共に、僕は走る速度を上げていた。脚を踏み出す度に焦燥感が身体の中を蝕んでいく。

 僕はいま皆が避難している高校に向かっているはずなのに、どうしてこんな何かと争ってるような音がし続けているんだ。

 

 校門に辿り着くと出したくなかった最適解が目の前に現れた。

 そこには黒ずくめの武装した男二人が立っていたのだ。顔を覆うマスクを被り、全身にフィットしたスーツを来ていた。酸素自己生成機能がついたマスクとどんな環境でも身体健康を正常に保つオールラウンドスーツだ。

 

 本来なら過酷な災害現場などで命を保護するためのものなのに、他者の命を奪う為に使われていることが皮肉で仕方が無かった。


 噛み締めた奥歯が割れそうだった。どうして、ここにいる。


 男二人が僕に気付き、持っていたアサルトライフルを向けてきた。

 僕は構わず、突っ込んでいく。ここに来るまで夕葉から力の使い方を教えてもらっていた。おかげで所々、曖昧だった記憶が浮かび上がるように鮮明なっていた。


 夕葉の声が聞こえてくる。


『お兄ちゃん、おさらいするね。科学の最大の失敗は自分自身を、人間そのものを弱いと決めつけてしまったことよ。私達の世界でまず教えられるのは調心、心を平静に保ち、全てを見極めること。それは自分自身も含まれてるわ。何も否定せずに動くことが出来れば科学が生む速度なんて止まってるのと一緒だよ』


 武装した男たちはライフルを僕に向けて、トリガーを引いてくる。僕には全てが見えていた。身体の筋肉の鼓動から視線の軌道さえも。


 科学は全てに理由をつけたと夕葉は言った。そしてその理屈に人は縛られたんだ。こういう理由があるから人は動けないと。それは可能性の否定だった。この世界の人ならそれこそ到底納得の出来ない理由だと思う。

 

 でも僕たちは違う。僕たちは、世界に存在する全てと調和して生きているんだ。

 理屈で世界を、自分を否定している相手に負けるわけがない。

 

 発砲音。火薬が炸裂し、銃口から対象を穿つことに特化した銃弾が飛んでくる。僕は放たれた銃弾よりも速く、ステップを切って間合いを詰めていった。

 

 小鳥が初めて空を飛ぶときはこんな感覚なのだろうか。小倉くんとの勝負で負けたことがなかった。けれどどこか違和感はあったんだ。それは頭と身体がずれているような奇妙な感覚。でも、今は全てが噛み合っていた。

 この世界は、遅すぎる。

 

 男達の眼には僕の姿はきっと映っていなかっただろう。僕は身体の急所に打撃を入れて男二人を卒倒させた。


『お見事。でもお兄ちゃんの全盛期には及ばないね』


 昔はもっと動けたのか。まだそこまで思い出せなかった。


「柔道でも負けないわけだよね……」


『ジュウドー? 何それ』


「いや、なんでもない」


 僕は体育館の方へ向かう。音が聞こえていたのは多分あの辺だ。


 心臓が吐き出るんじゃないかと思うほど鼓動が首元で鳴っていた。辺りはすでに、静まりかえっている。

 

 その意味はもう、どちらかでしかなかった。


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