第11話 襲来、怪人ミヤタクワガタ
「どもどもどーもー! お呼びとあらば駆けつけます、あなたのおそばの沙弥ちゃんだ!」
「と……都成さん!」
「よっ。待たせたな、ぼく。遅れて悪い、ちょぉっとナンパされちゃっててさー」
ん、と親指で指し示した先。
土煙を裂いて歩んでくる、その姿と声には、こちらにも覚えしかなかった。
「あっはっはっは。つれないなあ、都成ってば」
「み……宮田くん!?」
「ん? あっれー、その声、瀧川チャンじゃあん!」
やっほー、と手を上げる彼の、その仕草に、違和感。
……周囲は既に、大騒ぎになっている。嬉野先生に気を取られて気づくのが遅れたが、今しがた地面に大穴が空いて爆音と衝撃が響くよりも前から、運動公園には何らかの異常が起こっていたようだった。遠くからは悲鳴。ようやく流れ出す警報のサイレン。
そんな状況下で、平然と笑う少年。
「これ偶然じゃないよね。そっか。やっぱり君さあ、休日一緒に過ごすくらい、都成チャンと親密だったんだ。そうやって。そうやってさ。オレを、オレ、オレ、オレレレレレレレのここここととと、ののの除け者に、除け者で、二人して、二人して、二人してェェェッ!」
リアクションっていうのは、簡単なようで難しく、だからぼくも、間抜けに口を開けて固まった。
仕方ないじゃないか。同室の同級生が、いきなり特撮の怪人めいた化け物に変わった時の想定なんかしたことがなかったんだから。
混乱しながらも、脳内でレポする。黒光りする甲殻の外皮を纏い、頭部にハサミ状の器官を持ったそれは……まるでクワガタみたいだなあ、って。
「オレもッ! ハサませてもらって、いぃぃいかなァァァァァァッ!?」
叫びと同時に翅を広げ、そいつは一気に突っ込んできた。
狙われたのは都成さん。巨大なハサミに挟まれて、そのまま建物へと運ばれ、遠目にもわかるほど派手に倒壊した。激しく土煙があがり、無事かどうかもわからない——。
「な——なんだよ、これ」
「貴方の功績です、朔日さま」
呆気に取られた呟きに、嬉野先生が答える。
「知性体の抱える焦燥の種……【
「は……ははは」
馬鹿げすぎで笑いが漏れた。
こう言うのも何だけどさあ、そんなことできるやつ、野放しにしちゃダメだろ。
討たれてよかったよ、未来のぼく。
「ご心配なく。あなたには危害を加えません。私はあくまで、朔日さまを誤った
「…………っ!」
思わず、想像する。あそこで、彼女が介入してくれなかった場合。居た堪れない状況。同志のいない苦しさ。好きなものを、好きじゃなくなっていく、恐怖。
「や……やだよ……助けて……都成、さん……」
「あ、それ無理です。あいつは確かに忌々しくも最新型ですけど、正規の機材も用いないイリーガルで不完全な時代遡行のせいで、中はボロボロ。カタログスペックの十分の一も発揮できないポンコツですよ。即席の怪人にも勝てないくらいにね」
「…………は?」
なん、だ、それ。
そんなこと。
彼女は、ぼくに、一言も。
「健気というか、阿呆というか。こうなるのはわかっていたでしょうに。時代遡行は無理矢理できても、追っ手がかかることも、願いなんてどうせ叶わないことも。真っ当な生まれ方もしていない、体感の記憶を持たない、外からデータを流し込まれただけの
「…………」
「どうします? ここで一緒に、結末まで見て行きますか? 少々刺激的なシーンになりますし……一回引いた人も、また集まってきてしまうと思いますけれど」
「——あ、」
「いいですよ。帰っても。今の朔日さまには何もできませんし、あいつもどう足掻いたって、私が手ずから改造した断裁型には勝てません。逆転するにはそれこそ、ふふ、あいつが作られる前から、スペックの見直しでもしない限り——」
「わあああああああああっ!」
背中を向けた
ここにいても、何もできないから。何の役にも立てないから。
仕方ない。仕方ない。仕方ない。
そんな言葉を言い訳にして、今行われているピンチから、逃げて、走った。
言われた通り、追手は来ない。
ただ、背後から、心臓を貫く声を聞く。
「帰り道、お気をつけてー! また学校で会いましょうね、瀧川くん!」
ぼくは、走る。
学校へ。
学校へ——
——今。
たった一つだけできる、最優先の、やるべきことのために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます