第38話 卒業パーティー
卒業式は滞りなく終わり、夕方から開催される卒業パーティーの準備に私は一旦我が家に帰った。
卒業パーティーで着るイブニングドレスはユーリさまから贈られたもの。
プリンセスラインのドレスはユーリさまの髪色である黒を基調にしながら重ねたシフォンの柔らかさでふんわりとした印象を与える。
ユーリさまの瞳の色を使った金の刺繍で細やかな彩色をされたドレスに私の長い銀の髪がとても映えて見えた。
迎えに来たユーリさまも同色の正装に私の色でもある紫の宝石とプラチナの台のお飾りを身につけている。
「すごく似合ってるよ」
「ありがとうございます」
「これ、着けてくれる?」
ユーリさまが差し出したケースにはオニキスとシトリンの首飾りと耳飾りだった。
「わぁ、素敵!」
「着けていい?」
口に手を当て喜ぶ私にユーリさまが首飾りを着けてくれる、耳飾りをメイドが着けてくれて鏡を差し出された。
ドレスも合いまって上から下までユーリさまの色に包まれている私が映る。
「行こうか」
「はい」
ユーリさまにエスコートされながら私は卒業パーティーが行われる王宮に向かった。
会場には私たちと同じように婚約者の色を身につけた男女が揃っている、その中で一際目立つ二人に向かっていく。
「ユリウス、マルグリッド嬢卒業おめでとう」
「ありがとうございますカイン殿下」
生徒会長であるカイン殿下が婚約者であるイルマさんをエスコートしたようだ。
「イルマ嬢のエスコートを絶対私がしたかったからね、私が抜けても良いように頑張ったんだよ」
とイルマさんと揃いになる正装に身を包んでカイン殿下が朗らかに笑う、その隣でイルマさんも幸せそうに微笑んでいた。
指に嵌った青い石の指輪に目がいく。
「ちゃんとプロポーズした時に渡したんだ、着けてきてくれて嬉しいよ」
イルマさんの手を取り指輪を撫でながらカイン殿下が甘い空気を醸し出す、そろそろ砂糖が口から出そうになったころ、アリアとハインさんが合流した。
「今日はハインさまにエスコートをお願いしちゃいました」
「一人で来ることにならなくて良かったよ」
ピンクの可愛いドレスに身を包んだアリアがニコニコとしている、アリアの父であるダン男爵がかなり張り切って注文したドレスはアリアにとても似合っていた。
アレックスさまとファルマさま、ガレインさまとレオナさまがさらに合流する。
しばらくして陛下が卒業生に向けての言葉を述べて夜会の開始を宣言すると会場に音楽が流れ出す。
ダンスのために中央へ向かった私たちが足を止めた。
「皆!聞いてくれ!」
楽曲を止めて壇上に上がって声を張り上げたのはアルフォンス殿下だ。
その傍らにクララ嬢の姿が見える。
アルフォンス殿下はクララ嬢の肩を抱き寄せてぐるりと周囲を見渡し私を見つけると、スッと指をさした。
「マルグリッド•アルダイム!」
名指しで呼ばれ、ザワリと周囲が息を呑んだ。
カイン殿下が此方へ向かってくるのが見える。
「貴様との婚約を破棄する!」
高らかにアルフォンス殿下が叫んだ。
私はポカンと口を開けて固まった。
「マルグリット!貴様の悪行は聞き及んでいるぞ!貴様はここに居るクララ男爵令嬢を嫉妬の末、多数の嫌がらせをしていたな」
ふんっと鼻を鳴らしクララ嬢を引き寄せるとクララ嬢が悲しそうに涙を流した。
「公爵令嬢という立場を利用して人々を扇動しクララを迫害したであろう」
更に追い討つように語られる身に覚えのないこと。
「剰え危害を加えるべく階段から突き飛ばしたと聞く」
カイン殿下が顔を押さえながら天井を仰いでいる、隣に立つユーリさまが私を引き寄せた。
「そのような卑劣極まりない者がこの国に国母となること、以ての外。貴様のような者を私の伴侶にすることはない、何より私はクララを愛しているのだ」
そう言い切ってクララ嬢と見つめ合う。
「アルフォンス殿下、失礼ながら全て身に覚えのないお話です」
「貴様!この期に及んで!」
私はため息を吐きながらアルフォンス殿下を見た。
「それに殿下との婚約は破棄出来ません」
「何を」
「そもそも私はアルフォンス殿下の婚約者ではありません」
「は?」
言い切った私にアルフォンス殿下が間の抜けた返事をした。
ふと視線を動かせば陛下が赤い顔をして震えている。
「失礼ながら」
そんな中、ユーリさまが声をあげた。
「マリーの、マルグリッド•アルダイム公爵令嬢は私ユリウス•ランドール•ブロッサム伯爵の婚約者です、十歳の頃から」
アルフォンス殿下がポカンと口を開けたまま私たちを見ている、隣のクララ嬢が醜悪なほどに顔を歪ませた。
「そんなはずないわ!だってシナリオではアルさまの婚約者は悪役令嬢のマルグリッドじゃない!」
決定的な言葉をクララ嬢が叫んだ。
陛下と目を合わせたカイン殿下が合図を送り、直ぐさま王宮の騎士たちにアルフォンス殿下とクララ嬢が拘束されて連れて行かれた。
「皆、騒がせてしまったが、折角の祝いの席ゆえパーティーを再開してくれ」
陛下は疲れたようにそう言い残し会場を去る、去り際にカイン殿下に目で合図を送った。
「私たちも最後までパーティーに参加しましょう、その後申し訳ありませんが集まっていただいてよろしいでしょうか」
先までアルフォンス殿下を睨め付けていたユーリさまがカイン殿下に笑顔を向ける。
「わかりました、けれど今回は容赦出来ないですよ」
「私も完全に潰すつもりです」
二人の怖い会話を聞きながら私はホッと息を吐いた。
「ママ、大丈夫?」
小さな声でアリアが気遣ってくれる。
「大丈夫」
私は微笑んでアリアに答えた。
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