第36話 夜会の余波
年末パーティーである王家主催の夜会から数日、私たちはランドール家の温室に集まっていた。
夜会の騒ぎを知らなかったアリアとハインさんにあの日の話を簡単に説明すればアリアは口をあんぐりと開いて絶句した。
「どうやら私が目立つ事が気に入らなかったようだよ」
「だからって悪目立ちしちゃダメでしょうよ」
ハインさんが頭を抱えた。
私たちも呆れを通り越してカイン殿下にかける言葉が見つからない。
「卒業まで謹慎になったから暫くは安全なんだけど、ただ困った事に兄さんは全部マルグリッド嬢のせいだって喚いてるんだよね」
「なんでやねん」
思わず声に出てしまった。
「うん、勿論陛下も誰も信じてないし、どう考えてもマルグリッド嬢は一切関係ないからね、でも兄さんはずっとそう言ってる」
「何故、マルグリッドさまなんでしょう」
「そこがサッパリわからない、ただねぇ前にクララ嬢の素性調べてる話をしたでしょ?不味い話になっているんだよ」
カイン殿下が長いため息を吐く、イルマさんがカイン殿下の背を撫でるとカイン殿下はイルマさんに向かい小さく微笑んだ。
「彼女、男爵家の養子らしいんだけどね、どうも男爵自身の子ではなく男爵の出奔した弟の娘らしい、それも弟は既に亡くなっていてクララ嬢は弟の身に付けていたネックレスを持っていただけだとか、しかもただの養子だから卒業したら男爵家は出なければならない」
この国の養子には二つの種類がある、嫡出と同等の権利を要する養子こちらは父母どちらかが間違いなく家門の血筋であることが条件になっている、もう一つは保護の名目で組む養子で此方は嫡出の権利を持たない、代わりに血筋の証明は必要とされない。
ただ後者の場合爵位のある子息女として扱われることはなく、成人して保護する必要がなくなれば縁組が解消される。
これは貴族であるからこそ、血を守るために必要な決まり事なのだが、クララ嬢は後者だという。
当然だけど血筋の証明が出来なければ貴族として扱われないし王子妃にはなれない、アルフォンス殿下がカイン殿下のように婿養子に出た場合はクララ嬢の身分として平民にならざる得ない。
アルフォンス殿下に平民として生きる力は絶対ない。
クララ嬢が仮に男爵家を継いだところで第二王子の臣籍降下の身分は足りていない。
最低でも伯爵以上だ。
これには皆閉口するしかない。
「クララ嬢は卒業後、男爵家から追放するということらしいよ、本来こういった場合の貴族女子の行き先は修道院になることが大半なんだけど、どうやら男爵家としても修道院に入れるための寄付金すら彼女に払いたくないらしい」
卒業まで援助すれば養子の義務は果たせるということね。
「陛下がすごく怒っていてね、兄さんをこれ以上甘やかさないように側妃さまを離宮に閉じ込めたんだ」
カイン殿下、そんな王家内部事情をここでぶっちゃけてええもんなんか?
「兄さんには王子としての再教育を施すらしいけど、甘いよね」
カイン殿下はかなり怒ってらっしゃる。
まあ婚約者であるイルマさんの晴れ舞台を故意に台無しにした上に、本来なら参加する権利のないクララ嬢を参加させて剰えダンスを二曲連続で踊ったわけだから。
そりゃあカイン殿下も怒るよね。
「学園は三学期を残すだけだから兄さんに卒業はさせたいみたいなんだ、ちょっと許したくないかな」
普段は穏やかで落ち着いているカイン殿下が今日はかなり機嫌が悪い。
勿論私たちも二人のめでたい舞台を台無しにしたことは許せない。
まあ許せないとしても何も出来はしないんやけどね。
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