第35話 年末パーティー

 年末に王宮主催で行われる夜会、通称年末パーティーは成人済みの貴族にとっての大きな社交の場として扱われる、そのため余程の事がない限りは王国内のほぼ全ての家門が参加をしなければならない。

 成人とみなされるのは王国では十八歳から、学園の三年生は参加資格がある。

 ただ、この年末の夜会は参加人数も多いためデビュタントとして社交デビューを許されるのは伯爵位以上の令息令嬢のみとされている。

 私やユーリさまアレックスさまファルマさま、ガレインさまレオナさま、イルマさんの七名が仲間内では今日が夜会デビューとなる。

 

 私はランドール領で国外から輸入された真っ白なシルクのドレスにユーリさまの瞳の色をしたシトリンやイエロートパーズのお飾りを身に付けた。

 いつもはハーフアップのプラチナブロンドの髪を高い位置で一つに纏めた。

 迎えに来てくれたユーリさまは黒地に銀糸と紫糸で細かい刺繍が施された正装にアメジストのタイピンとお飾りはプラチナで揃えられている。

 「とても綺麗だよ」

 「ユーリさまも素敵です」

 ユーリさまのエスコートの手を取りランドール家の馬車に乗り込む。

 我がアルダイム家の馬車には兄ウェルズとその婚約者が乗っていく。


 入場に際し公爵家である私もユーリさまも王族の入場前に案内される。

 名前を告げられ大きな扉からユーリさまにエスコートされながら入場すれば会場はすでに沢山の人で賑わっていた。

 少し周りを見ればファルマさまとレオナさまが小さく手を振っているのが見えた。

 私とユーリさまは友人たちと合流する。

 「マルグリッドさま、素敵です!」

 「ファルマさまもレオナさまもとても素敵だわ」

 お互いに褒め合ってデビュタントを祝う。


 雑談に花を咲かせていると管楽器のファンファーレがなり王族が入場して……お?おお?

 「今日は皆に良い知らせがある、第三王子であるカインとハーレン伯爵家イルマ嬢の婚約が整った、皆には是非二人を祝って欲しい」

 陛下がそう言うとカイン殿下にエスコートされたイルマさんが半歩前に出る。

 真っ白でシンプルな型でありながらシフォンとレースをたっぷり使ったドレスにカイン殿下の瞳の色をしたサファイアのお飾りを付けたイルマさんがとても綺麗で私たちは素直に祝いの拍手を贈った。

 「カイン殿下、本当に押し切ったんだね」

 「カイン殿下の成人を待つって話もあったんだろ?」

 「イルマ嬢の近くにカイン殿下にとっては最大のライバルが居たからね」

 「飄々として見えて結構焦ってたみたいだから」

 ユーリさまとアレックスさま、ガレインさまの話を聞きながら知らなかった情報に少し驚いた。

 壇上で頬を染めながらカイン殿下と目を合わせて微笑むイルマさんはとても可愛らしく、カイン殿下の気持ちも少しわかる。

 

 陛下の挨拶の後はカイン殿下とイルマさんがダンスを踊り、その後私たちもダンスをすることになった。

 「私と踊っていただけますか?」

 「はい」

 ユーリさまが差し出した手に手を乗せて二曲続けてダンスをする。

 アレックスさまとファルマさま、ガレインさまとレオナさまも一緒だ。

 軽快なワルツを今年デビューを迎えた若い男女が踊る、華やかな会場。

 ダンスは必須科目な上に私たちは仮にも上級貴族のため完璧を求められる、すっごい練習した。

 そのおかげで楽しくダンスを踊り切り端に戻りユーリさまから冷たい水を渡されて飲んでからやっとひと心地つけた。

 将来的に伯爵になるユーリさまは私を連れて有力者と挨拶を交わしていく、私も鍛え抜かれたアルカイックスマイルを顔面に貼り付けユーリさまと共に挨拶をしていく。


 そのうちにザワリと周囲の空気が変わった。


 人混みを掻い潜りアレックスさまが私とユーリさまを人の壁の後ろに連れて行く。

 案内された場所にはガレインさまファルマさまレオナさまが難しい顔をして会場の中央に目を向けていた。

 「どうかした?」

 ユーリさまの問いにガレインさまが顎をついっとあげて前方を示す。

 人の隙間から中央を覗いて私はヒュッと息を呑んだ。

 「まじか」

 「一体何を考えているんでしょう」

 デビュタントを表す白いドレスに身を包んだ女性がアルフォンス殿下と楽しそうに踊っているのが見えた。

 「クララ嬢は男爵家だよな」

 「今日、ここに居ては絶対いけないんだけど」

 そう、今日は人数の多い子爵家以下のデビュタントは許されていない。

 呆気に取られていると曲が終わり、ダンスも終わると思われた。

 が、そのまま二曲目を踊り出す。

 当然周囲の貴族が戸惑いの声をあげだしている。

 夜会での続けて二曲踊るのは婚約者だけ、三曲は結婚している夫婦のみ。

 これはマナーなどではなく、ルールに近い、それを婚約者ではないクララ嬢とアルフォンス殿下が踊っているのだから周囲の戸惑いもわかる。

 

 「ユリウス、マリー」

 兄のウェルズが私たちに声をかけてきた、顔が青ざめている。

 「あれは何だ……」

 「何でしょう、私たちもサッパリ……」

 「大体今日はカイン殿下の……ああそうか、くそっ!ユリウスすまないがマリーを連れて先に帰ってくれ、私は王太子殿下のところへ行ってくる」

 ウェルズは自分の婚約者を連れて王族の控える部屋へ向かった。

 私は兄の言葉に従い皆と共に静かに会場を抜けて帰宅した。

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