第34話 もうすっかり秋なんよ
闘技大会が終わると、すっかりいつもの日常が戻り肌寒い日が増え始める。
学園の門から続く小道も両脇に植えられたポプラが黄色く色付き始める。
闘技大会最終日にファルマさまがやらかした一件は、ちょっと規模の大きい夫婦喧嘩として済まされた。
この辺の事情はよくわからないまでも、カイン殿下が何かしら手を回したらしいことをユーリさまが話していた。
週末はお茶会に呼ばれる事が増え、ゆっくり休日を取れない日が続き、いい加減面倒になったため今週末は我が家にてお茶会を開く事にした。
アルダイム邸の中庭にある四阿に集まるいつもの面子。
やっと肩の力が抜ける週末に私やファルマさまレオナさまやイルマさんはぐったりしている。
社交も大変なんよ。
「みんな草臥れてるね」
「週末の度にお茶会ですからね、学生の本分をなんだと思ってるのでしょう」
「お茶会ってお茶してお菓子食べるだけじゃないんです?」
アリアの素朴な疑問に私たちは長い長いため息を吐いた。
「狐と狸しか居ない化かし合いよ?」
「裏のある言葉しか出てこないしね」
「さり気ないマウント合戦なんてウンザリするんだから」
口々に女性陣が不満を溢すと「うわぁ」とアリアはひいている。
「まあ、将来の予行演習だよね、私は卒業してしまえばさっさとイルマ嬢の元に行くから、むしろ解放されるんだけど」
「私とマリーもブロッサム領に行けば社交は王都ほどではないから」
「違う社交は増えるんですよ?ユーリさま」
「そこは一緒に頑張ろうね」
会話が途切れたところでカイン殿下が声を潜めて話し出した。
「クララ嬢の事だけどね」
眉間に皺を寄せるカイン殿下に薄く疲れが滲んでいる。
闘技大会でのガレインさまへ行った言動も含め、当日様子をご覧になった陛下がアルフォンス殿下を含めクララ嬢にも強く懸念を示したらしい。
「あんなんでも第二王子だからね、彼女の素性と素行も徹底的に調べているらしい、同時に学園内でも監視が入ると、迷惑な話だよ」
はぁ、と大袈裟なため息を吐きカイン殿下が苦い笑いを見せた。
「私は何もやましい事などないのにね、あの馬鹿のせいで私にまで監視がつくらしいのだよ」
「今までも目はあったでしょう?」
ユーリさまが朗らかに口にした。
「目?」
「暗喩だよね、王家筋の子息女なんかに混じってるんだよ」
「間違いがあってはいけないから、でしょうか」
「それもあるね、身を守る程度は身分から致し方ないんだけど」
やれやれと肩をすくめたカイン殿下は紅茶を口に運ぶ。
「あのさ、闘技大会でガレインに話していた内容のことも含めてもしかして彼女はマルグリッドさまやアリア嬢と同じなんじゃないかな」
アレックスさまが言いづらそうに口を開いた。
「恐らく彼女はマルグリッドさまが悪役令嬢?だっけ?だと思っているとすれば、アリもしない噂を流したり、僕やガレインにカイン殿下にも接触しようとしたりした事に説明つかないな」
「でもヒロインは私ですよ?」
「うん、でもアリア嬢は誰かとそういう関係にはなりたがってないよね、だからその話を知っている転生者が居てヒロインに成り代わろうとした」
「そもそもマルグリッドさまはアルフォンス殿下と婚約してないですし、多少のズレはあると理解しているんじゃないかと、アレックスさまと予想していたんです」
ファルマさまが言葉を引き継ぐ。
「ああ、彼女は平民あがりの男爵令嬢だったね、なら私たちの現在の状況や交流は知らなくて当たり前で、彼女自身は前世の知識で動いているのか、ユリウスはどう思う?」
カイン殿下がユーリさまに問いかける、ユーリさまは暫く紅茶のカップを見つめてから口を開いた。
「恐らくそうだろうね、だから私にも接触してきたんだろう」
皆黙ってクララ嬢のことを考えるが答えなど出るわけもなく。
「まあ、クララ嬢自体はアルフォンス殿下にくっついてるしほっときゃいいんじゃねえかな」
「動きだけなら俺も多少は見ておけるし」
ガレインさまとハインさんが明るい声をあげて重くなった空気を払拭させた。
「学園の年内行事は年末のパーティーぐらいだし、年が明けたらすぐに卒業だしね」
「冬季休暇も挟むから実際半年もないんだ、これまで通り俺たちは極力クララ嬢にもアルフォンス殿下にも近づかないってんで行くしかねえだろ」
「兄さんに近づかないで住む方法が私は知りたいよ」
「カイン殿下、そこはあきらめましょう」
「アリア嬢はたまに不敬だよね?」
「え?!」
ようやく笑顔が戻り、その日のお茶会は終了した。
クララ嬢は何なんやろうねえ。
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