第33話 闘技大会三日目
今日は闘技大会最終日。
種目は魔術対戦と武術演武のふたつ。
魔術対戦にはアレックスさまと今年はファルマさまが出場する。
「アレックスさま!今日は全力で挑ませていただきます!」
「うん、今日一番の強敵はファルマだろうね、楽しみにしてるよ」
「胸を借りるつもりで頑張りますね」
いつもは少し控えめにも見えるファルマさまが興奮気味にアレックスさまに話しているのをアレックスさまが優しげに見つめている。
ファルマさまは去年まで魔術技能を選択していて二年連続で準優勝、二年連続優勝はユーリさまだったんだけど。
魔術対戦は準決勝までを午前中に昼休憩を挟んで武術演武、午後から決勝となっている。
尚、昨日の対戦により本日ハインは欠席。
「やっぱり魔術対戦は派手ですねぇ」
目の前で繰り広げられているファルマさまの一回戦にアリアがため息をこぼす。
「ファルマさまの風魔法、また威力が上がってますね」
「無駄が無くなったように見える」
ガレインさまの言葉に私たちは頷く。
「魔石に刻み続けた魔法陣効果かな」
一学期のオリエンテーションを思い出して苦笑いを浮かべたのはユーリさま。
「あ、ファルマさまが勝ちましたね」
「このままいけば準決勝でアレックスと当たるんだね」
カイン殿下が少し惜しいと呟く、ただトーナメントの対戦順は私たちではどうにも出来ない。
先程の対戦を見る限りファルマさまなら優勝決定戦に残る実力はあるはず、ただまさか同じ組みにアレックスさまが居るのは不運でしかない。
開始前に話していた通りアレックスさまの魔術は抜きん出た才がある。
ファルマさまも充分強いが、もし勝ち筋があるならアレックスさまの虚を上手くつけるかどうか。
アレックスさまの一回戦は三分もかからずアレックスさまの勝利で終わった。
次の準決勝でファルマさまとアレックスさまが試合をする。
アレックスさまもファルマさまも、集中するために控室への入室は断っているため、私たちは観客席から様子を眺めているしかない。
反対のブロックの一回戦が終わり、結界を張り直した会場にアレックスさまとファルマさまが入場してきた。
「アレックスさま!」
「どうした?」
「私が十分持ったらデートしてくださいませ!」
「は?」
ファルマさま???
「は、はじめ!」
「いきます!」
ファルマさまの開始前の宣言にアレックスさまが出遅れた。
ファルマさま得意の風魔法がアレックスさまのローブを切り裂く。
「くっ」
「ええ……ちょっと待ってよ」
「問答無用です!だいたい!最後に二人っきりで会ったのがいつだったか!」
ブォンブォンと間髪入れずに風の刃がアレックスさまに向かい飛んでいく。
「覚えて!いらっしゃい!ます!か?」
徐々に早く打ち出される風の刃を水の壁でアレックスさまが塞ぐ。
「え?いや、ごめん?」
「新年度前!ですよ!」
あ、これはアレックスさまが悪いですね、観客席の女性陣から冷ややかな視線がアレックスさまに送られています。
っていうか、二人で会ってなかったの?
「え?え?あ、いや、ごめんなさい?」
「ゆる!しま!せん!絶対デートしてもらいます!」
これもうファルマさまの勝ちでええんちゃうのん?
ガレインさまとカイン殿下はすっごい笑ってるし、ユーリさまは「私はマリーといつでもデートしたいからね」とか言い出すし。
反撃に映るべくアレックスさまが水の壁を崩してその行き先をファルマさまに合わせた。
「うっ」
腕を含め胴体をがっちりと水が固定してファルマさまの動きを止めました。
「わ、悪かったよ」
「う、うう……アレックスさまなんてアレックスさまなんて……」
ズンっと地面が揺れた。
「っ?!ファルマ!」
隆起した土がアレックスさまを閉じ込めた。
「仕方ない」
シンと静まる会場にバラバラと隆起した土の壁が崩れて水が溢れた。
「ごめんッてば」
「アレックスさまなんて」
しゃくり上げて泣き出したファルマさまが何を言ったのかは私たちには聞こえませんでしたが、ファルマさまが負けを宣言して試合が終了しました。
「ほんっとにごめん、ファルマ機嫌直して」
「知りません」
昼食時はずっとこの調子。
まあ自業自得でしょとカイン殿下が言ったので私たちは昼食を摂り終えるとそそくさと観客席に戻ります。
この後はイルマさんの演武です。
カイン殿下の気配がうるさい。
「話には聞いていたんだけど見るのは初めてなんだ」
そう言いながらソワソワと落ち着きないカイン殿下を放っておいて、会場に視線を移した。
私たちもイルマさんと知り合ったのは今年になってから、イルマさんの剣舞がすごいと聞いてはいたのでカイン殿下に負けず劣らず楽しみにしている。
長剣を二刀携えたイルマさんがシンプルなドレスを着て現れた。
ひとつひとつの動作が流れるように美しい。
凛とした佇まいから針に糸を通すかのような剣先の動き、流動から静寂へ、そしてまた動きだす時間。
息をするのも忘れるほどの情景に私は会場から目を離せなかった。
両手を地面に付き剣を置いてイルマさんの剣舞が終わると、カイン殿下は何も言わずにイルマさんの控室に向かって走っていった。
「すごく、綺麗でしたね」
「あれじゃあカイン殿下もジッとしてらんなかったんだろ」
空席を見ながら私たちはクスクスと笑ってしまう。
きっと明日からまたイルマさんがポンコツになりそうな予感がする。
魔術対戦の優勝決定戦はため息を吐きながらアレックスさまがシレッと優勝していた。
少し対戦相手が気の毒ではあった。
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