第30話 闘技大会本戦開始
順調に私たちは予選を勝ち抜きいよいよ本戦の日を迎えた。
今日の種目は魔術表現と武術技能。
私とカイン殿下の出番です。
「マリーなら大丈夫だよ、いつも通りに頑張ってね」
「はい、ユーリさま」
ユーリさまが私の額にチュッと小さな音を立てて口付けた、突然のことに顔を赤くする私をユーリさまが和かに微笑む。
「イルマ嬢、私もアレやりたいな」
「む、む、む、む、む、り、ですぅ」
「えー?じゃあ私がするね」
「え?ちょっと、いやっ待っ」
カイン殿下の方は本戦の緊張感などと言うものはあまりないようです。
「ふん!いい気なものだな!」
穏やかな空気をぶち壊す声にユーリさまが私を背に隠した。
「おや、アルフォンス兄さんじゃないですか」
「随分浮かれているようだが、間違っても一回戦敗退などの無様を晒さんようにしろ!」
ふんぞり返りながらカイン殿下を指差し怒鳴りつけるアルフォンス殿下にカイン殿下はやれやれと呆れたようなため息を吐いた。
「なんだ?」
「いえいえ、アルフォンス兄さんのように予選をシードで上がれる実力ではありませんので、気を引き締めてますよ」
「はっ!当たり前だ!これまでは貴族や平民を慮って実力を出さなかったからな!今回は俺の実力をキッチリ見せてやらねばなるまい」
「アルフォンス兄さんは明日の武術対戦でしたよね、母上も兄さんの活躍を楽しみにしていると明日は側妃さまと観覧なさられるそうですよ」
「は?」
「兄さんの活躍を楽しみにしてますね」
そう告げてカイン殿下はイルマさんの腰に手を回してユーリさまに目で合図を送る、それに対してアレックスさまとガレインさまが視覚の壁を作り私を先に行かせた。
「ハインかガレイン、兄さんに当たることがあれば手加減はいらないよ、私が許可する」
「了解」「わ、わかりました」
先に武術技能の本戦が始まった。
白磁に金細工の弓を携えたカイン殿下は危なげなく決勝まで勝ち抜き、観客を唸らせていた。
「うーん、対戦なら優勝を婚約者に捧げたり出来るのだけど、今回は格好がつかないかなぁ」
そんなことを言いながらスパーンっと動き回る最後の的を射抜いたカイン殿下が少し顔を赤らめながらイルマさんの元へ向かい膝を着いてその手を取った。
「うん、この勝利を君に」
「って、やっぱり格好つかないね」
私たちに見せるより年齢らしい幼い笑みを浮かべたカイン殿下にイルマさんが瞳に涙を浮かべ「格好良いです、ありがとうございます」と小さな声で答えていた。
この場面はのちに学園で語り継がれることになったらしい。
なんでも優勝を婚約者に捧げれば幸せになれるとかなんとか。
卒業したあとだから、私は知らんけど。
いよいよ私の出番。
魔術表現の本戦はトーナメントではなく本戦出場者が予選結果の成績下位から順に披露していく採点方式。
今年は魔道具作りで繊細な魔術行使をしたおかげでかなり綿密な操作が出来るようになった。
他の出場者が披露を終えた会場に立つ。
観客の歓声が静まり、遠くの席に居るユーリさまの口が「がんばれ」と動いたのを確認して小さく頷くと、片手をあげた。
地面が数センチ隆起する、反対の手を翳して蔦植物がシュルっと魔法陣を描く。
両手を翳して水が吹き上がると私は脳内へイメージを固めていく、同時に水が翼のついた馬の姿を模る。
水で出来たペガサスが翼をひと振りすると蔦植物に火がつきペガサスの足元に炎の魔法陣を浮かび上がらせた。
両手を下ろすと同時に炎がペガサスを包み込み、静寂が訪れた。
満点を叩き出した私が今年の魔術技能部門優勝となった、迎えてくれたユーリさまが嬉しそうに笑って抱きしめて労ってくれる。
「ユーリさまのおかげですね」
「マリーの努力の賜物だよ」
見上げたユーリさまが私を見る目が擽ったく、俯いた頭のてっぺんに口付けを落とされた。
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