第28話 夏季休暇

 ブロッサム領に着いて雑務をしているうちに一週間が過ぎ、友人たちがブロッサム領館に着いた。

 真っ先に来ると思われたアリアは教会の奉仕活動があるために一日遅れると連絡があった。

 最初に到着したのはカイン殿下。

 ブロッサム領地とはいえ現在はランドール公爵領にある領館の使用人は初めて迎える王族に上へ下への大騒ぎになった。

 「ははは、気にする事ないのにね、しがない第三王子なんだから」

 「気にしないのは無理でしょう」

 「そうかなぁ」

 と、呑気な王族は着くなり我が物顔で振る舞っている。

 イルマさんとハインさん、ガレインさまとレオナさま、アレックスさまとファルマさまが到着すると俄かに賑やかになった。

 翌日、遅れてアリアが合流。

 明日からの三日間ほどの短い滞在になるけれど、学園と変わらない騒がしさに頬が緩む。


 「へえ、面白い水路だね」

 「この水路で運搬するんだね」

 領内を升目に渡る水路に船を浮かべて領地を案内している。

 皆、珍しそうにキョロキョロとして私やユーリさまに気になることを質問する。

 「この辺りは気候も安定しているからね」

 「ああ、なるほど、水害や干ばつが多いとこの形式は使えないか」

 「雨の多い王都では難しいだろうね」

 「私の方の領地だと雨があまり降らないからこの水量を維持するのが難しいですね」

 カイン殿下とイルマさんが水路についてかなり熱量を傾けて聞いている。

 「あ!あれ!たこ焼き!」

 「魔道具の設計図はあったからね、ここで先行して販売してるんだ」

 小さな店舗に並ぶ行列を眺めながら各々達成感に包まれる。

 質問攻めになりながら一日目がすぎた。


 二日目は港の方へ向かった。

 輸送船や漁船を眺めながら港を歩いて抜けると白い砂浜のある場所に出る。

 木陰を上手く使いシートを広げて休憩できるようにすると、ガレインさまとハインさんは海に入っていく。

 「あの二人、仲良いね」

 「気が合うんでしょうねえ、ガレインはあまり裏表ない方が付き合いやすいんでしょうから」

 「ハインも同じですかね」

 スクスクと笑いながら持参した軽食を並べていく。

 「イルマ嬢はハインと随分仲が良いんだな」

 「幼馴染ですから」

 カイン殿下がイルマさんの隣に腰を下ろした、カイン殿下の雰囲気にレオナさまが私たちの方へと移動する。

 「将来を約束しあっている、などということは?」

 「有り得ませんね、兄妹みたいなものです」

 「ふむ、イルマ嬢は今婚約などはしていないと聞いたが」

 「してません」

 「では、私はどうだろう?」

 「は?」

 イルマさんがぽかんと口を開けている、私たちは成り行きを見守りながらも「これカイン殿下がフラれたらどうすれば」と戸惑わずにはいられない。

 「イルマ嬢は伯爵家を継ぐのだろう?なら私は悪くない相手だと思うぞ?」

 イルマさんが口をパクパク開けながら私たちに助けを求めるように視線を動かすが、カイン殿下はイルマさんの手を取り甲に口付けた。

 「ひぇっ」

 「帰ったらすぐに伯爵家へ書簡を出そう」

 「ほ、ほ、本気ですか?私は辺境の伯爵家で……」

 「家柄を言うなら丁度良い、どのみち臣籍降下する身ゆえ下手に中央の覚えめでたい家よりも敵意なしとみなして貰えるだろう、何よりイルマ嬢の常々領地を思う姿勢は好ましい」

 私たちはそっとその場から離れて海岸沿いを散歩に出た。

 「上手くいきますかね」

 「カイン殿下が決めてるなら逃げられないと思うよ」

 「カイン殿下としては早いうちに自分の立ち位置をはっきりさせたかったようですし、実際イルマ嬢は良い相手でしょう」

 オリエンテーションで一緒だったメンバーはイルマさんのことを知っているだけに、悪くない相手だと私たちも思う。

 カイン殿下の様子なら二学期が始まれば婚約者が決まっていそうだなと私たちは頷きあっていた。


 

 

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