第25話 編入生クララ

 編入生の噂はひと月もしないうちに学園中に広まった。

 とはいえ、アルフォンス殿下が吹聴する「マルグリッドの編入生虐め」に関しては誰も信じておらず、中には同情されることも多くあった。

 また同時にアルフォンス殿下が編入生と不適切な距離で連れ歩いているという噂も出回っていた。

 むしろこちらが噂のメインかもしれない、私も父からアルフォンス殿下と編入生について聞かれたが、よくわからないと返すに留まった。


 そんなある日。

 「参った……なんなんだ、あの編入生は」

 アレックスさまとガレインさまが疲れ切った顔をして教室に入ってきた。

 「どうなさったの?」

 「クララとかいう編入生に絡まれた」

 ぶすっとむくれたガレインさまが大きなため息を吐く。

 「突然腕にしがみついてきたかと思ったらあなたたちアルさまの取り巻きなんでしょ!って言い出して」

 「あなたの魔法は私と一緒ならもっと凄いことが出来るって言うから魔力がどれくらいあるのかと思えばほんの少し土系の魔術が使える程度、精度もないしそもそも彼女魔術系の授業すら取ってないんだ、しかもガレインには騎士さまって凄いんですよね、尊敬しますとかいきなり言い出して私だけはあなたな味方だとか妹さんに負けないでとか……ガレインの妹って剣は握ってないだろ」

 「そうなんだよな、素質はあったみたいなんだがやりたい事が別にあるとかで剣は幼少期の体力作り程度なんだが」

 「挙句、なぜアルさまの側に居ないんですかっときたもんだ」

 なんと返していいか分からず開いた口が閉まらない。

 ユーリさまはそれを聞いて難しい顔をしている。

 たまたま教室に遊びにきていたアリアがぽそりとこぼした。

 「強制力?」

 「強制力?とは、なんです?」

 アリアに問うと気まずそうに顔を背けた。

 「うん、私も彼女からアレックスやガレインが何処にいるのかや好物は何かとか聞きに来られたんだが、そうだね、マリーみんなに話して協力してもらわないかい?」

 「ユーリさま……そうですね」

 私は友人たちに打ち明けるべく、週末にランドール家に集まることで話を終わらせた。

 アリアはずっと何かを考えているようだった。

 

 週末、ランドール家の温室に集まったメンツに加えて何故かカイン殿下が居た。

 「カイン殿下、お久しぶりです」

 「マルグリッド嬢、久しぶりだね」

 「随分と疲れてらっしゃいますが、大丈夫ですか?」

 「マルグリッド嬢、聞いてくれる?アルフォンス兄さんが連れて歩いてる男爵令嬢がさぁ本当に怖いんだよ、兄さんに振り回されて大変なんだとか言いながらずっと体に触ろうとするんだよ?信じられる?私、これでも王族だよ?気安く触っていい訳ないじゃない、護衛がビックリして引き剥がしてくれたんだけど、大泣きされちゃってさ」

 「ああ……まあ兄さまの方にも接触をはかったみたいですから」

 「うわっやっぱり?攻略対象だもんね、マルグリッドさまのお兄さん」

 「でもねぇ、臨時講師は断ったから接点ないじゃない?どうやら馬車の前に飛び出して来たらしくて新手の当たり屋かと御者が衛兵に通報したらしいの」

 「うわぁ」

 早めに着いていたアリアと話しているとカイン殿下が不思議そうに私たちを見ていた。

 「詳しくは皆さんが揃われたらお話しますね」

 ユーリさまもずっと難しい顔をされている中、最近よく集まるメンツが温室に集まった。

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