第22話 オリエンテーション二日目
前日の魔石への魔法陣付与は順調だったのもあり、組み立ての工程はあらかじめ予定していた通りに出来そうで一安心をした。
ある程度の工程を午前中に終わらせれたこともあり、午後は雑談をする余裕も生まれた。
「ではイルマさんとハインさんは幼馴染なのですね」
「ええ、学園には私の見張りも兼ねてるのですよ」
イルマさんがやれやれと肩を竦める。
「見張りじゃない、護衛」
それをハインさんが嗜める。
イルマさんはドルエン伯爵家の一人娘、ドルエン伯爵領に居を置くサレース男爵家の三男ハインさん、二人は幼少期よりドルエン領で兄弟のように過ごして居たとか。
いつの間にか気後れのない二人の掛け合いはこのチームのムードメーカーになっていた。
「本当は少し怖かったんですよ、Aクラスの人たちって」
「怖い、ですか?」
「はい、特にランドールさまやマルグリッドさまは常に成績もトップですから」
「ああ、わかります、ちょっと見えない壁みたいな」
アリアがイルマさんの言葉に同意する。
「実際に話したら、壁とかなくってすごくお優しくって」
「そうですね、私もアレックスさまに初めてアルダイム家のお茶会に連れて行かれた時は同じように緊張してましたよ」
「え?そ、そうなの?」
「私がお茶会に呼ばれた時にはユリウスさまとマルグリッドさまは婚約してらっしゃいましたし、他の方含めて貴賤のない関係に見えてましたから、後から入るには結構な勇気が必要でした」
懐かしそうに話すファルマさまに、私は申し訳ない気持ちになる。
ユーリさまは婚約者だったとしてもあの頃は皆男の子ばかりで、少しの疎外感がなかったわけではなかった。
だから、初めて女の子であるファルマさまが来るとわかった時にはかなり浮かれていたんだけど。
「全然気づきませんでしたわ、私初めてお茶会に女の子が来るからって浮かれてましたし」
正直に話せばファルマさまがクスクスと笑う。
懐かしい話題にほっこりしながら作業を進めていけば夕方になる前には全ての作業が終わり、前世で見慣れたたこ焼き器に似たものが出来上がった。
ついでだったのでホットプレートに似たものも作る。
燃料の魔石に組み込んだ魔法陣などのテキストを纏めてレポートを手分けして作る。
魔法陣に関してはアレックスさまが矢張り詳しく、記録になればファルマさまが纏めていく。
この二人も相性がかなり良いのか、こういう作業になると阿吽の呼吸というぐらい良いコンビネーションを発揮する。
おかげでレポートもサクサクと終わり、男性陣が夕飯の支度を始めた。
「明日は朝食を抜いて魔道具の最終実験に入ろうか」
「そうですね、いよいよ食べれるんですねぇ」
「今からお腹すいちゃいますね!」
「夕飯前ですしね」
男性陣が用意した夕飯を皆で食べ、私とユーリさまは夜の散歩に出かけた。
「明日で終わりなんて信じられへん」
銀の髪が吹き抜けた風に靡いた。
「うん、楽しかったね」
ユーリさまが横を歩く私の腰に手を回す。
「皆さんに私の我儘に付き合わせた気がしていたんやけど」
「そんな事はないよ」
「それにしてもイルマさんがチームに加わってくれたんは運が良かったですね」
「そうだね、あの技術がもう少し広がれば王都で懸念されていることも解消出来るかもしれないね」
「そうやね」
夜の散歩にも関わらず、相変わらず陽だまりのようなユーリさまと歩いているだけでまだ肌寒いはずの空気すら温かく感じる。
気負わずに前世の言葉遣いを許してくれているユーリさまと一緒に居るととても楽で、息がし易い。
「明日も楽しみだね」
ふふふと笑うユーリさまが愛しく感じ、胸に暖かくなっていた。
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