第18話 密かな野望

 「魔道具か、マリーは作りたいものでもあるの?」

 帰りの馬車の中でユーリさまがこてんと首を傾げて尋ねた。

 「あ、はい、実は前世で食べとった料理を作る器具を作りたいなって」

 「前世の料理……」

 一応貴族令嬢な私、前世知識とはいえやっぱり料理したりはユーリさまにも不評かも知れない。

 貴族令嬢は基本的に料理をしない、怪我の防止もあるけどそれは料理人の領分なので、雇用を作るためにも料理はしない、たまに趣味で作るにしてもお菓子ぐらい。

 今回作りたい料理は多分貴族令嬢としては色々アウトなんやけど。

 「うん、私もすごく興味があるよ」

 杞憂やった。

 「ランドールの領地に先日お伺いした時に、必要な材料を見つけたんで器具さえあれば作れるやんかと思ってたんですよ」

 「じゃあ私とマリーはそれを作ろうか」

 「はい!」

 存外に乗り気なユーリさまが私の話を聞きながら上手くいけば自領になる領地の港でも平民向けに出来ないかなと思案したりしている。

 引かれないか心配していたのが顔に出ていたのか私を見たユーリさまがふふふと笑った。

 「マリーの懐かしい味、私も知りたいからね」

 イケメンか、イケメンやったわ。


 そうしてオリエンテーションの準備期間が始まった。

 実習のある二週間前からグループ分けを行う。

 そのグループからそれぞれチームを作り実習の三日間に向けて準備を行う、以前までの錬金術グループだとこの期間に道具や山や森に入る準備などをした。

 魔道具を選択したグループが集合し、その中でチームを作る。

 既にユーリさまと私は私が発案した魔道具作りをするため二人でチームになっている、そういう目的が既にある場合はチームメンバーの募集をしなければならないらしい。

 現在のチームメンバーと制作予定の魔道具を指定の紙に記入して提出、移動式の掲示板に紙が貼られて、まだチームが決まっていない生徒がそれを見ながら希望を出す。

 それでも決まらなかった生徒は担当の先生たちが上手くチームに分けるらしい。

 

 貼り出された掲示板を遠巻きに見ながらユーリさまに描いてきた図と必要そうな部品について話し合っていた。

 「へえ、初めて見るね」

 「ランドール領の港近くの市場でアレ見つけたらこれが食べたくなっちゃって」

 「上手くいけば領地でも食べれるから楽しみだね」

 「ですね」

 そんなことを話していると私の書いた貼り出しの紙をジッと見ている人物に気付いた。

 「あれ……」

 ピンクのふわふわした髪……その後ろ姿が目に入った。

 食い入るように張り紙を見ている、時々首を傾げながら。

 私はザワザワとした不安に駆られて彼女から目が離せなくなっていた。

 只管に紙を見つめていた彼女がぐるんと振り返り私と目が合うと青い瞳の中に見える星をキラキラとさせながら走ってきた。

 それはもう、すっごい早かった。

 全速力で走るからスカートが捲れて……あ、転けた。

 こらこら、淑女が走ったらあかん!

 「あ、あ、あ、あ、あ!の!」

 「は、はい?」

 私の目の前に来た彼女がグイーッと顔を近づける。

 瞳の中の星が心なしかめっちゃ輝いて……。

 「あれって!あれって!」

 「はぁ……」

 「たこ焼き器やんな!」


 私は無意識にアリア嬢とハイタッチをした。


 なんでやねん。

 

 

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