第13話 帰路

 乙女ゲームのヒロイン、アリアに似た少女との遭遇に気を取らながらも確信は得れず、その後再び出会うこともなかったためその日はそのままユーリさまとの街歩きを楽しんだ。

 恐らく彼女はヒロインのアリアだろう、そしてアリアも存在するならば学園に編入してくるのはほぼ確定なんだろう、未来が多少変わったとしても私の手の届かないところでは何も変えられないのかもしれない。


 その日以降は領地関連のお勉強や有力者などとの顔合わせと日々は忙しく過ぎて行き、アリアと思われる少女のこともゲームのことも考える時間もなくいつの間にか私はそれ自体をすっかり忘れていた。


 今回のランドール領での予定は順調に終わり私とユーリさまは王都へ帰還するための馬車に乗り込んだ。

 邸を出る際には使用人からかなり惜しまれながらの出発となり、ユーリさまが困ったように笑っていた。

 

 「はい、これ」

 「何ですの?」

 馬車が走り出してからユーリさまが封筒に入った分厚い書類を私に差し出した。

 私は受け取りながら首を傾げる。

 「例のアリア嬢とダン男爵に関する調査書だよ」

 馬車に乗るまで渡さなかったのは完全な二人きりになれるのが馬車の中だけだからだろう、邸に居ても誰かしらの目がある、うっかり内緒話をするのはリスクが高い。

 私は渡された封筒から書類を取り出し内容に目を通す。

 「ダン男爵が市井に別邸を置いてそこに母娘を住まわせているのは間違い無いよ、そして娘の名前はアリア」

 調査書にはアリアの母の出生からダン男爵との出会い、その後の生活にアリアを出産後から現在までの経緯が細やかに記されている。

 アリアも充分な教育を受けながら育っているようだ。

 市井育ちというにはかなり裕福な環境と思える、家庭教師を雇い最低限の学習を施されていると思われる。

 つけられている家庭教師の中にはマナー講師もいるため、市井育ちの非常識さなどは言い訳にも使えなさそうだ。

 これなら男爵家の令嬢と同等の教育は受けているだろう。

 現在の評判としても周囲の反応は悪くない、虐げられているわけでもなさそう。

 ただ一番驚いたのは……。

 前世の話をしてから二週間でこれだけのことを調べ上げるユーリさまとランドール家の力。

 たった二週間、王都に居てもその短期間でここまで詳細に調べようと思えば相応に時間がかかる。

 まして今回は内密に調べたはず。

 戸惑う私にユーリさまは人差し指を立てながら話を続ける。

 「それでね、僕考えたんだけどアリア嬢が本当に学園に編入して来たとして僕がそのゲームだっけ?それで彼女に情報を流す役割ならさ……」

 一旦そこで話を区切ったユーリさまが調査書を私の手から取り払い、行き場のない私の手を握りしめた。

 「それって僕がある程度彼女の行動に干渉出来るってことだよね?ふふ」

 いやいやいや、ユーリさま笑ってはるけどめっちゃ怖いで?

 ぶるっと私が震えたのを見てユーリが可笑しそうに笑う、その目は優しい。

 「彼女がアルフォンス殿下を狙ってるなら上手く行くように協力するのも、他に行くように誘導するのもなんならその五人の誰とも何も起こらないように出来ちゃうよね」

 ソウデスネ……。

 そない怖いこと考えてなかったんやけど。

 確かにユーリさまがあのゲームの立ち位置に居るのならば、それを利用すればアリアの行動をある程度まで誘導出来るはず。

 それはそれとして、アリアがゲームのままの明るく純粋で慈愛に満ちた人物ならアルフォンス殿下なんかとくっつけてええもんやろかという疑問も生まれる。

 だってやで?あのアルフォンス殿下やで?

 ううんと悩む私にユーリさまがクスクスと笑う。

 「だから、マリーは安心してていいからね、僕を信じてマリーの大事な秘密を話してくれたんだから僕もマリーに答えたいんだ」

 ……すっごい甘々な台詞なんやけど、さっきからずっと悪寒がするんや。


 私、ちょっと判断間違えたんちゃうかな。

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る