第12話 既視感と遭遇
領都を経由する山脈から流れ込む河を船で進み、半日ほどで港のある領地に入った。
いずれユーリさまが伯爵位を継ぐと治めることになる地になる。
領都にある港が他国との輸出入である大きな港に対してここの港は国内流通と漁業がメインとなる中規模の港を要しながら広大な農地と酪農も盛んな結構大きな街になっている。
領都から輸入されたものは一旦ここに集まり、陸路と海路を使い国内へと運ばれる。
ランドール領だけではなく国内の物流として、ここが重要地のひとつでもありここを治めることが決まっているユーリさまが次男という立場ながらランドール公爵の期待が高いことを内外的にも示してる。
街を升目に走る水路を見ていると、少し懐かしさを覚えた。
「すごく整備されているんですね」
「うん、二代前のランドール公爵が作った水路だね」
馬車が高台から街中に向かい結構なお邸に着いた。
門から林かと思うほどの小径を抜けて邸がようやく見えてくる。
「大きい……」
領都の城は別物としてもかなり大きなコの字型に張り出した邸は豪奢とは言えないが精錬とした佇まいと歴史を感じる重厚さがある。
「領都の白もだけど、ここの邸も見栄とか威嚇だから」
私はうんと頷く。
「豊かである」そう見せることが重要なんよね、要はちょっとイキっておいてから自分の力を誇示しておけば商売にしろ政治的なことにしろ、それだけで武器になるんや。
あんまりにも中身伴っとらんと意味がないんやけど、な。
「今日はゆっくりして明日街を案内するよ」
「楽しみです!」
「うん」
歓迎のディナーと広くゆったりとした浴場での入浴、長距離移動と顔合わせなどの緊張にコロコロと変わる環境、加えてユーリさまへの秘密がなくなったことの安堵とバタバタとした日々の疲れからかその日の夜は倒れるように眠りにつき、翌日疲労からの発熱で丸一日を寝て過ごしてしまった。
楽しみにしていた街への外出がなくなったと肩を落としていた私に朝食時にユーリさまがニッコリとご提案された。
「昨日のうちに雑務は終わらせたから今日は街の案内を兼ねてお忍びで街歩きしない?あ、もちろん病み上がりだから無理はさせないよ?」
ユーリさま、最高。
「い、行きたいです!是非!」
私の食いつきの良さに呆れるでもなく微笑みながら、控えている侍従に指示を出すと私は部屋で着替えをさせられた。
貴族のお忍びらしい衣装に身を包み邸の裏口から繋がる道を歩いて行くと無人の教会に入る裏口が見えた。
教会を抜け正面の入り口から出るとそこは既に街の一角。
この周辺の区画には邸の従業員が住んでいるためそこから暫く歩けば通りに出る、これ有事の際に使われる抜け道やね。
呆けている私の手をユーリさまが握って少し大きな公園に着いた。
「ここは住民がよく使う公園になってるんだ、商業区にある公園は街を横切る川の真ん中にある中洲にあるんだよね、あっちは少し遠いから今日は無理かな」
ユーリさまが領地の地図を広げて川の中洲にある島を指差した。
何故だろう、何かここに来てからすごい既視感があるんや……。
「飲食店が多い区画に繋がる橋はあんまり行かせたくないかなあ」
めっちゃ既視感が。
「職人区と商業区にかかるこの通りはすごく長くて、面白いんだよね」
「ユーリさま、ここは二代前の公爵さまが作られたんですよね」
「そうだね」
「もしかして前世は同郷かもしれません」
「多分そうだと思うよ、ただ公爵じゃなくて公爵夫人がかな」
「そ、そうなんですね」
「うん、彼女もマリーと同じような言葉遣いをしてたからね」
うん、見れば見るほど……これ大阪の地図に似てるんよ。
図書館のある島にめっちゃながい商店街、なんちゃら道楽のあるあの橋とか。
水路もなぁ、これ学生の頃地元の歴史で聞いたことあるやつやもんなぁ。
「その公爵夫人は今は……」
「流石にもう居ないよ」
「せやろな」
「うん」
どおりで荒唐無稽な私の話をユーリさまが受け入れてくれた訳やわ。
まさか先先代の夫人も前世の記憶があったやなんて。
ユーリさまが地図をしまったのと私の背中にドンという衝撃が走ったのはほぼ同時だった。
前につんのめいて倒れそうになった所をユーリさまに支えられた。
「す、す、す、すいません!ごめんなさい!」
わぁぁと慌てて頭を下げる少女を見て私の心臓がドクンと跳ね上がった。
ピンクのふわふわした髪、顔をあげた顔に青い瞳と虹彩が星。
あれ、絵やから可愛いけど実際に見ると不気味やな、瞳の中に星て。
「本当にごめんなさい、父との待ち合わせに……あぁっ遅刻!すいませんすいません」
そして彼女は走り去った。
私、許してないけど……。
そう、ゲームのタイトル画面で何度も見たヒロインの少女。
間違いあらへん、あんな目ん中に星があるようなん間違いようがあらへんやん。
「アリア嬢……」
「マリー?」
茫然と彼女が走り去った方向を見る私をユーリさまが心配そうに呼んだ。
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