第10話 ランドール公爵領へ
諸々が落ち着いたタイミングで私はユーリさまのご実家であるランドール公爵領に招かれることになった。
今回は領民や各領主、ランドール公爵領でのお披露目も兼ねているので領都まで馬車で三日、それから三週間の滞在期間があり帰りも三日かけて王都に帰る、ほぼ一カ月の外泊となる。
そのためお父様やお母様からは口酸っぱく失礼がないようにと久しぶりに令嬢教育、特に礼儀作法を復習させられ、更にランドール公爵領についての予習もしっかり組み込まれたスケジュールに出発前日まで忙殺されていた。
めっちゃえらいわ……。
初めての馬車旅もランドール公爵家が最大限に気配りしてくれていたおかげで、快適だった。
長距離用に振動を少なくゆったりと広めに作られた馬車の中で私はユーリさまに色々なお話をした。
海に面し背後に連なる山脈を有するランドール領は交易と鉱山資源に恵まれたかなり裕福な領で、ユーリさまが継がれる土地は領都の南側になる港のある辺り、今回は山側にある領都からユーリさまが継がれる南側に移動して滞在する予定になってるんやけど、ホンマに広い。
我がアルダイム領は農畜産が主な平地が多い領地で広さもかなりあるんやけど、ランドール領はその更に上をいく。
馬車でユーリさまから聞いたのは、あまりに大き過ぎるからユーリさまが領の要のひとつである交易港の辺りを伯爵位と共に継ぐ形で自主的に少し削りたいんだとかなんとか、そういう政治的な話はようわからんけどユーリさまなら上手くやるんやろうなぁ。
「城やん」
「いや、城やん」
城があった。
なんなら王都にある王宮よりでかいんちゃうやろか。
「威嚇の意味もあるんだって」
ユーリさまが隣で笑いながら案内をしてくれた部屋に入り猫足の可愛いらしいテーブルとゆったりとしたソファに座りお茶を頂きながらぐるりと周囲を見渡す、外観もすごいけど内装もすごい。
あれよバロック様式とかロココ調とかゴシック様式とかなんやら、区別はつかへんけど前世知識としてはテレビで観たことあるようななんかそんな大層な名前のついとった内装、区別はつかへんけど。
ユーリさまの言う「威嚇」が外に対してなのか内に対してなのかはわからないけど、そこはユーリさまがニッコリ笑ってるんでわからないままで良いんやろな。
香りの良いお茶を一口飲んだユーリさまがティーカップをテーブルに置いて私を見た。
「マリーはさ、時々不思議な話し方をするよね」
ドキッと心臓が跳ね上がった。
気を抜かないようにしているけど、不意に出る訛りはどうしようもなくて。
やばい、何処までバレてるんやろう。
私は盗み見るようにユーリさまを見上げると、ユーリさまは私をジッと見ている。
気まずっ。
正直なとこ前世知識があるっちゅうんはバレてもそんなに困れへんねん、魔法もある世界やからちょっと変わったこともまあまあ受け入れられるやろうし。
問題はこれが乙女ゲームの世界で実は決まった筋書きがあるっちゅうことや。
よう考えて欲しい。
決められた物語の自分が登場人物でしかないとか、普通に腹立つやろ。
自分の境遇が誰かから決められたものとか、自分の選択が自分の考えではなく誰かの意図したものだとか。
私やユーリさまは幸いにも恵まれた環境だけど、これがスラム街で生まれたとかならどうやろう。
しかも、私が第二王子のアルフォンス殿下との婚約をマリエンヌに丸投げしてユーリさまと婚約した時点で話の筋から大きく脱線しとるわけや。
そう、もう既にしっちゃかめっちゃかなわけよ。
前世知識の話だけしたとして、私じゃあ全部隠し通すんは難しいやろなぁ、私素直やから嘘つかれへんねん。
チラチラとユーリさまの様子を伺うも、なんか怖い時の微笑みを浮かべとる。
怖っ。
「無理に、とは言わないけど僕に話してもいいって思えたら、話して欲しい」
いつになく真剣な重さを感じる声色と優し気に笑うユーリさまに私は……。
全部、話した。
しゃあないやん!嘘ついても絶対バレてまう気しかせんのやもん!
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