第9話 側近候補

 王宮のお茶会から一カ月後、ごく身近な友人のみでアルダイム家のサロンを使いお茶会を催した。

 王宮のお茶会が終わるとお茶会程度の社交が解禁されるのがこの国の慣わし。

 大概やなぁと思うのは高位貴族となると持ち回りでお茶会の開催が暗黙の了解としてさせられる。

 特に派閥の子どもたちの交友関係を作る目的もあるため公爵家や侯爵家の開催するお茶会は規模も大きくなる。

 我が家のお茶会も開催を楽しみに待っている貴族も多いらしい、兄も学園を卒業するまでは何度か我が家でお茶会を開いていた。

 とはいえ兄は王太子殿下の側近候補でもあったので、頻繁ではなかったけれども、私はそうもいかんのやろうなぁ。

 ともかく今日のお茶会は気兼ねない面子のみの小さなもので私も気が楽ではあるんやけどね。

 私とユーリさま、ガレインさまにアレックスさま、アレックスさまの従姉妹にあたるファルマさまが本日の参加メンバー。

 こういうお茶会に参加したがる妹のマリエンヌは母に同行して母の友人のお茶会についていっている。

 ファルマさまは初めてちゃんとお話をするんやけど、ちょっと大人しい雰囲気のある可愛らしいお嬢さんで赤茶の髪を緩るく纏めているのがお上品な印象を与える美少女。

 

 「俺の婚約者でアレックスの従姉妹にあたるファルマ嬢だ、よろしくしてやってくれ」

 「ファルマ•フェルマンです、よろしくお願いします」

 「フェルマン伯爵家のご令嬢でしたか」

 「僕はユリウス•ランドール、彼女はマルグリット•アルダイムだよ、こちらこそよろしくね」

 「マルグリットです、ファルマさん仲良くしましょうね」


 挨拶で始まったお茶会は和やかに進み、やがて話題は先日の王宮お茶会に。

 アレックスさまが眉根を寄せてユーリさまに尋ねられました。

 「ユリウスさまは、第二王子殿下の側近候補を辞退なさられたとか」

 ビクッと一瞬私の肩が跳ねた。

 「うん、そうだねぇ」

 「ですよね、あれを見てしまうと……噂以上でしたから」

 「噂?ですか?」

 言いづらいのか少し言い淀んだアレックスさまに代わりガレインさまが口を開いた。

 「第二王子殿下はとんでもない我儘で乱暴者って結構あっちこっちで言われてんだよ」

 ガレインさまの言葉に諦めたのかアレックスさまも口を開く。

 「アルフォンス殿下の癇癪で怪我をして王宮の侍女を辞した人も居るらしくてね、しかもそれがファルマの母方の親戚筋だったとか、だから僕にも側近候補を辞退した方がいいんじゃないかって話になってるんだ」

 それは、気の毒すぎるわ。

 「お怪我をされた方は大丈夫だったのですか?」

 私の質問にファルマさんが話を引き継ぐ。

 「ええ、幸い怪我自体は軽いもので跡も残らないのですが、彼女も貴族令嬢ですから傷物になってはいけないと」

 それで辞めたわけやね、ホンマどうしようもない王子やなぁ。

 呆れ返っている私にアレックスさまがため息を吐いた。

 「そんな噂がある上にこの間のマルグリットさまへの暴言だったろ?我が家としては断りたいけどってところだったんだよ」

 「俺はどっちでも良かったんだが、ユーリさまもアレックスも辞めるんなら辞退するかなぁ」

 しかし、側近候補それも高位貴族の令息が軒並み辞退なんかしたら余計に我儘に拍車がかかるんちゃうか?

 腐っても王族、伯爵家以下の令息やったら咎めることも難しくなるやろし。

 「どっちにしても、マリーは安心していいからね、ちゃんと父上から陛下に約束を取り付けてもらったから」

 ユーリさまがとても良い笑顔です、怖っ!

 「あ、ありがとう、ございます」

 引き攣りそうな頬を叱咤激励しながら笑みを返すとユーリさまは嬉しそうに笑った。


 このお茶会から半年後、側近候補は伯爵家と子爵家から選ばれたと風の噂で耳にした。

 ガレインさまとファルマさまの婚約もありアレックスさまもそのすぐ後には伯爵家の令嬢との婚約を発表された。

 妹のマリエンヌは母の伝手で隣国の小公子と婚約が決まった。

 マリエンヌ曰く「王子さまより王子さまっぽい人の方がいい」らしい。

 ユーリさまの影響もあったみたいやけど、正直マリエンヌを大事にしてくれる人やったらその方がええ。

 あの王子さまを押し付けた形になったんでちょっとは責任感じてたからホッとした。

 ただ、第二王子殿下の婚約者は相変わらず決まらないとのことで、現在は他国にまで範囲を広げて嫁探しをしているらしい、詳しくは知らんけど。

 側妃さまの苦労が察して余りあるんやけど、まああんだけ甘やかした側妃さまも責任あるやろうしな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る