第6話 一旦整理してみよか
ある日夢を見た。
「だから、この五人が攻略対象でこの中の一人か全員とハッピーエンドになるのが目的なの」
「この五人て、全員婚約者さんがおるんやろ?なのにヒロインと愛を育むん?そんな浮気もんと一緒になるのは嫌やわ」
「わかるけど!そういうゲームだから!」
「それに婚約者にこんな酷い言い方したり態度取ったするようなん、ほらテレビで言っとったモラハラみたいやん」
「モラハラやしパワハラやしフキハラやけどみんな顔がいいし!ゲームやから!」
「あんた顔がええからって騙されたりせんといてや?」
「ゲームと現実は違うから!」
目覚めた瞬間目の前には天蓋が見えた。
兎に角バカフォンス……アルフォンス殿下との婚約回避にばかり気を取られてたけど、せやせや、他にもおったんや。
私は起き上がるとシルクのような銀髪をひとつに纏めて紙とペンを用意し、改めてゲームの記憶を引き出した。
タイトルなんて覚えてないゲームの舞台は海外の中世を模した世界感と剣や魔法なんかもあるファンタジーらしいファンタジー。
王国に生まれたヒロインは十七歳で王立学園に編入し卒業までの一年間に五人の攻略対象と恋をし魔法か剣の道を目指す物語。
まずは攻略対象の一番目立つ位置に居たのが第二王子殿下のアルフォンス。
金髪のいかにも昭和風少女漫画に出て来たようなゆるふわウェーブの髪に何故か一人だけ白い学園制服を着てちょっと強引な我儘王子さまは王太子である兄への劣等感に苛まれ、側妃さまの期待に押しつぶされかけていてヒロインの天真爛漫さと王子さまの我儘を受け入れて優しく諭すそんな母性に惹かれていく、控えめに言って拗らせたマザコンやったね。
騎士団長の子息ガレインは厳格な父にずっと認められたいと直向きに頑張りながらも追いつけない背中に挫折しかかっていた、さらに妹が騎士として優れた才能を開花させていくうちに嫉妬に駆られて家族と疎遠になっていき孤立していく、そんなガレインに手を差し伸べたのがヒロイン。
煙たがられながらもガレインにしかない才能を見つけて助言をしガレインの実力を引き上げていく、そうして絆を深めた二人は全てを捨てて学園を飛び出して冒険者としての道を歩み出す。
君ら、周りへの迷惑とか考えてへんのか?侯爵家の令息と駆け落ちなんかしたら男爵家なんて塵一つ残らんよ?
魔法騎士団長子息のアレックスの場合はヒロインが魔法の道を選択すれば魔法の授業でパートナーとして半年間の実務訓練を共にすることになる、難しい最終試験の突破を目指すうちに深まる関係、二人きりの研究室で重ねる逢瀬、そして無事試験を突破して二人で魔法省に勤務する。
その際、深めた関係に卒業式でプロポーズするんやけどこの時点で婚約者とはまだ婚約関係にあってヒロインと共に婚約者に解消をお願いするんよ、婚約者は泣きながら去っていく後味の悪さが好きになれへんかった。
さらに宰相の子息である我が兄…兄もそうだったんやったわ。
兄であるウェルズ•アルダイムは国を支える筆頭貴族の一角を担う公爵家嫡男にし、直近に結婚を控えた一番攻略が難しいと娘が話していた攻略対象。
臨時講師として数日間学園に通うウェルズはその少ない日数に座学全ての成績トップを維持し彼から「もっと君を教えたかった」と言わせれるかどうかにかかっていた、そして臨時講師を終わらせたウェルズに家庭教師をしてもらうことになるヒロイン、たまたま出先でウェルズの婚約者が他の男性と一緒に居るところを見てしまい、浮気されたと思った傷心のウェルズにヒロインが寄り添う。
結果、浮気なんてしてへんかった婚約者と和解するはずがすっかりヒロインに絆されたウェルズは婚約を破棄してヒロインの手を取る、と。
昔のトレンディドラマっぽいな。
隠しキャラとしてアルフォンス殿下のルートから分かれて出てくるのが第三王子殿下のカインさま。
カインさまはアルフォンスの我儘に振り回されるヒロインを気にかけ声をかけてヒロインとアルフォンスの間に入り込む、今風に言えば寝取りに分類されそうなヒロインから仕掛けずヒロインに仕掛けていくカインに翻弄されるヒロイン。
カインは優秀な王太子殿下である兄を尊敬していて、足を引っ張り王族の恥晒しみたいなアルフォンスを蹴落としたいと画策していて、ヒロインがカインの闇に触れ堅牢な壁を慈愛で溶かしていく、そして王太子殿下から内密に外交として交換留学の話が舞い込むカインにヒロインが共に船に乗り旅立つのがこの隠しルートのエンディング。
全体的にドロドロのシナリオを無理やり爽やかに終わらせようとして失敗した感がすごいあった。
以上が攻略対象。
あれ?あんなに格好良いのにユーリさまは攻略対象じゃなかった?
うーんと頑張って思い出してみる。
そうだ!
ヒロインのお助けキャラみたいなポジションに居たクラスメイトの名前がユリウスだった!
顔も出ないクラスメイトで名前だけ表示されるお助けキャラ、誰が何処に居たとか誰が今悩んでるようだとか、場合に寄っては好きな食べ物とかも教えてくれた、そのクラスメイトこそがユーリさまだ。
アルフォンスとガレインとアレックス、それに兄ウェルズと第三王子殿下カインさまを加えた五人が攻略対象。
学園に編入して来たヒロインはアリア嬢、ダン男爵の庶子で市井で育ち先妻が男爵に離縁を突き付け実家に帰ったのを期に後妻としてアリアの母が男爵家に迎え入れられる、同時にアリアも男爵家に入る。
アリアは剣と魔法の才能に恵まれていて攻略したキャラによって冒険者として剣士になったり国に支える魔導士になったり異国で聖女になったりする。
アリアが誰も選ばなければ大聖女になって神聖国へ旅立つエンディングになるマルチエンディングを採用していた。
学園編入から卒業までの一年に学科試験や遠征研修、剣技会に魔法披露会、文化祭など様々なイベントがあり、少しずつ攻略対象と愛を深めていく、ベタベタな恋愛劇。
昨今のドラマでもそこまでヒロインに都合の良い展開はないくらいに。
私はというと第二王子のアルフォンスの後ろ盾として公爵家の意をもってアルフォンスを支える使命を与えられ、アルフォンスの尻拭いに奔走しながら婚約者に近付く女狐を煙たく思い遠ざけようとする役割、どう考えたって当たり前なんやけどアルフォンスはそんなマルグリットが気に入らない、そのうちマルグリットを遠ざけてアリア嬢を侍らすようになり卒業パーティーでの暴言になるわけやけど、現状私はアルフォンスとの婚約を結ばずユーリさまと婚約をしたんで、この結末は大丈夫なはずなんよ。
問題は他の攻略対象とどうにかなった場合、現在まだ空白の侯爵家の婚約者たちは何れユーリさまの婚約者として親交を深めるはず。
兄の婚約者なんてお義姉さまになるし既に知り合いやし、お義姉さまが泣くのは嫌やからヒロインの兄ルートは叩き潰さんとあかへん。
第三王子殿下のルートが一番マシではあるんだけど、世界平和的には大聖女になってもらった方が絶対いいはずやねん。
でも、アリア嬢にも好きになった人と幸せになる権利が……あらへんな、貴族に生まれたからには好きな人と結婚は難しいんやもん。
どうするべきかわからないまま頭を抱えた。
ただ絶対防ぎたかった断罪だけは現状無事に回避出来たと思う。
とりあえずと、私は記憶を書き出した紙を封に入れ鍵のかかる引き出しの更に隠し棚に入れた。
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