第5話 婚約のその後
私とユリウスさまの婚約は驚くほどスムーズに話が運び、顔合わせから僅か二ヶ月後には神殿での婚約式を済ませることが出来た。
その間もユリウスさまとは週に一度、我が家を訪れ二人でのお茶会をしている。
殆ど一方的に私が喋っているのをユリウスさまがニコニコと聞いているだけだけど。
「……と、いうことがあったのです」
「ふふ、マルグリット嬢はお話しが上手だねぇ」
「ふぇ?あ、あの私ばっかりお話ししてしまって……」
「僕は話すのが得意じゃないしマルグリット嬢のお話しを聞くのはとても楽しいから、もっとたくさん話して欲しいな」
コテンと首を傾げて上目遣いにお願いポーズ。
ドキンと心臓が止まってまいそうになるやん!イケメンか!イケメンか!そうや、イケメンやったわ!私の婚約者超イケメン!
「あ、あうあうー」
目眩がしそうというかもうグルグルしてしまって言葉が上手く出なくなる。
そんな私をニコニコと見つめるユリウスさまはやっぱり格好良くって。
「ねえ」
「は、はいっ!」
「マリーって呼んで良い?」
ふぁっ?!そそそそそれは!愛称呼びというやつやないん?
「ダメ?」
ダメって聞きながらそんな悲しそうにお願いなんてされたら、あんたもう好きにしてぇってなるやないか!
「だ、ダメじゃないです!!」
「良かった!じゃあマリーは僕のことユーリって呼んでね」
「ゆ、ゆ、ユーリ……さま……」
うふふと満面の笑み、まっまっ眩しいっ。
神殿での婚約式後は定期的にユーリさまの王都にあるランドール公爵邸へ月に一度三日ほど滞在することになった。
公爵家への嫁入りの際の勉強とは言ってもユーリさまは第二子息なので公爵を継ぐのはお義兄さまになるスレインさま。
ユーリさまは公爵家が持ついくつかの爵位のうちの一つを継ぐらしい。
スレインお義兄さまはユーリさまと歳が随分離れていて、王太子殿下の側近もなさられている。
初めての顔合わせでびっくりするほどユーリさまに似て柔らかい雰囲気だったスレインお義兄さまに将来のユーリさまを見た気がしたほど。
私もまたランドール公爵家の皆さまには好意的に受け入れていただけたので将来の見通しは明るくなった。
同時にマリアンヌと第二王子との婚約も順調に進む筈だった。
「貴様!この俺がわざわざこんな見窄らしい所まで足を運んでやっているのに、留守にするとは何事だ!」
私はなんで、マリアンヌと第二王子の逢瀬に付き合わされているんやろうか。
「お言葉ですが」
「言い訳など見苦しいぞ!」
ガチャンと投げつけられた皿をヒョイと躱すとそれにすら苛々した様子。
ってか我がアルダイム公爵邸が見窄らしい?ふざけんなや?
「この俺を怒らせておいて!なんだ!その態度は!」
大丈夫か?この王子。
私にしろマリアンヌにしろ、この婚約は第二王子の後ろ盾を盤石にするためのもので、こちらからお願いしているものではないんやで。
王子さまに憧れていたお花畑な妹ですら私の横でドン引きしとるけど。
「これ以上ここにいて第二王子殿下のご機嫌を害するのはよろしくないようですので、私は下がらせていただきます」
「ふん!身の程を弁えているようだな!まぁ貴様がそこまで言うなら……」
「では!失礼します!」
第二王子の言葉を遮り私は足早に我が家自慢の庭から立ち去った。
後はマリアンヌがどうにかするでしょ。
知らんわ。
とか思っていたらマリアンヌが婚約者候補になって僅か三ヶ月後にはマリアンヌから父に泣きついて第二王子殿下の婚約者候補から名前を消してもらったらしい。
マリアンヌ曰く。
「信じられない!あのバカフォンス!」
待って?バカフォンスってあんた、誰がうまいこと言えと。
「王城に行っても呼んでないとか言って全然顔を出さないし、うちに来てもお姉さまに暴言吐いてる以外は私と話もしないのよ?」
「あんなの詐欺よ!詐欺!」
まあ怪我とかさせられる前で良かったんちゃう?
「まあまあ」
「大体お姉さまが私にバカフォンスを押し付けるから!」
バカフォンスはやめなさい。
「第二王子殿下をそんなふうに言ってはダメよ?」
ヒステリックに喚くマリアンヌを宥めながら、私は正直ホッとしていた。
これであの記憶にある婚約破棄はなくなるだろう、私もマリアンヌもアルフォンス殿下の婚約者ではなくなったわけだし私にはユーリさまが居るし。
「マリアンヌなら社交に出ればもっと素敵な殿方からたくさん申し込みが来ると思うわ」
そう煽てれば満更でもないのか、ふんと鼻を鳴らして「まぁね」と笑っていた。
今回のアルダイム公爵家令嬢二人との婚約がまとまらなかった話は瞬く間に知れ渡り、国内の有力な貴族は第二王子殿下との婚約に後ろ向きになっているらしく、現在第二王子殿下の婚約者は空席のままとなってしまったらしい。
自業自得やろ。
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