第3話 第二王子殿下アルフォンス

 エントランスまで父と母と私で出迎え、恭しく出迎えをする。

 両開きの重厚な扉が開き、目に痛いほどの反射光に塗れた側妃さまがまず入られた。

 その後ろから不機嫌さを隠しもしない金髪のウェーブがかった髪をふわふわさせて第二王子殿下が入って来た。

 「ご足労いただきありがとうございます、カトリーヌ殿下、アルフォンス殿下」

 「構わぬ、大事なアルフォンスのためですからね」

 扇子を口元にあてニィと笑う側妃さま。

 既に退屈そうなアルフォンス殿下。

 先行きが既に不安すぎるわ。

 「娘のマルグリットです、さあご挨拶を」

 私は再び記憶の引き出しを引っ掻き回してカテーシーを披露する。

 「マルグリットです」

 こういう時はいらん事を言わんようにしとくのが一番や。

 機嫌良くサロンに行きしばらくは大人たちが会話している。

 って、一回もちゃんと紹介されてへんのやけど?そちらのめっちゃ偉そうにしてはる王子さん。

 私は小さくバレないようにため息を吐いた。


 その後はお決まりの二人でお話しをする時間が設けられ、半ば無理矢理庭にある四阿に押し込まれた。

 が、会話がない。

 アルフォンス殿下はずっと不機嫌だし、時折り私を睨んでいるし。

 何なんや、あんた!言いたいことあるなら言わんかい!

 と言ってしまいたい。

 言えないんだけどねえ、立場的に名前も紹介されてないから呼べませんしなぁ。

 「ふん、貴様のためにわざわざこの俺がこんなところにまで足を運んだのだ、感謝しろよ」

 え?第一声がそれなん?お城の教育どないなってんねん。

 「ご足労いただき感謝しておりますわ」

 うっかり素が出そうになるのをグッとグググッと堪えて淑女らしい笑みで答える。

 「母上を立てて来てやったが、お前ごとしでは俺に釣り合わん」

 ほうほう、側妃さまの出自が子爵家で大した後ろ盾がない第二王子の後ろ盾と金銭援助が欲しくて、そちらから持って来た話だと昨日聞かされたのですけどねえ?ふぅん?そうかいな。

 「そうですわねぇ、全く私には荷が重いと思われます」

 「ふん!わかっているなら良い」

 「では、大変申し訳ありませんが少しお時間いただきます、軽食をご用意しておりますのでごゆるりと」

 私はアルフォンス殿下の返事を待たずにひと息でそう告げて、控えていた侍女に目配せをする。

 侍女は直ぐに軽食の用意に向かった、私はその足で父と母、側妃さまがおられるサロンへと戻った。

 

 「あら、どうしたの?」

 サロンに着いた私に気付いた母が声をかけてくれたので、私はスタスタと父と側妃さまの前に立った。

 「お話があります」

 「ど、どうした?」

 「先程まで第二王子殿下とお話をしていましたが、どうやら私はお気に召していただけないようなのです」

 私の言葉に側妃さまが片眉をあげた。

 「そこで、提案があるのですが」

 ぴくりと側妃さまが眉を動かした、同時に父が私を止めようと立ち上がりかけたのを側妃さまが扇子で止められた。

 「私も殿下とは性格が絶望的に合わないと感じました、なので私は妹のマリアンヌを推薦したいと思うのです」

 「次女の方だったかしら?」

 「はい、妹は王子さまに並々ならぬ憧れを抱いており、今朝も身支度中の私を訪れて熱い想いの丈を聞かせてくれていました」

 「ふむ」

 側妃さまが考えるように扇子を口に当ててた。

 「年齢もひとつしか変わりませんし、私とは性格も違い快活で可愛いと評判です」

 まあ、物は言い方いうてな落ち着きのない頭の中が可愛いも言い換えれば良く聞こえるわけよ。

 「そう、妹さんはお会い出来るのかしら」

 「はい!呼んでまいりますね!」

 私は父の苦い顔に内心舌を出しながらマリアンヌの部屋の扉を叩いた。

 「マリアンヌ!側妃さまがお呼びよ!さあさあ、早く!あなたなら大丈夫!」

 「は?何?何が?」

 椅子に座りお茶を飲んでいたマリアンヌの手を引いて私はサロンに戻る。

 「連れて参りました」

 「え?あ、あの、ま、マリアンヌです」

 辿々しいカテーシーをして挨拶をするマリアンヌを置いて私は一礼すると自室に戻った。


 父が部屋に来るなり大仰なため息を吐いた。

 「お前はなんてことを」

 「無理ですよ、性格があまりに合いません、私はマリアンヌほど王子さまに憧れなど抱いていませんし」

 「まあなぁ、確かにお前かマリアンヌのどちらかで良いわけだしな」

 「マリアンヌも乗り気でしょう」

 「ああ、今側妃さまとアルフォンス殿下と仲良く話をされているしな」

 「なら、良いではないですか」

 「だが、あれが王子妃教育をだな」

 「そこはマリアンヌの愛で」

 「愛」

 「ええ、愛」

 そんなわけあらへん、愛でどうにかなるほど王子妃教育がではなく、マリアンヌの頭の中はどうにもならへん。

 けれど、あれほど羨ましがっていたわけだし。

 「わかった、だがお前も婚約者は必要だ」

 「私、えんがわ……いえ、日向の庭が似合うようなおっとりとした方が良いですわ」

 ふふと笑って父を追い出す。

 よっしゃ!婚約回避!成功!

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