『怖い女』.txt

 エバは蛇にそそのかされて、禁断の木の実を取って食べ、アダムにも食べさせた。その結果二人は「性」を知った。それまでは裸でも恥ずかしくなかったのが、それ以降、お互いが裸であることを恥ずかしく思ったからである。そして二人は楽園を通報された。この時人間に死の運命が課せられ、同時に「土地から食物を獲る」、すなわち農耕という文化が発生した。その後エバはアダムとのあいだに息子たち、カインとアベルを産んだ。

 まさにこの「最初の女」エバが、人間に死の運命を決定づけた「死」をもたらす女であり、子を産む母でもある。「すべての生けるものの母」なのである。生と死という、女神の二つの顔を持つ女なのだ。


 性と生と死、そして農耕という労働と文化が、この神話によって同時に発生したと説明されていることも重要である。生と死と生殖は神話的思考において、不離のものである。死がなければ生もありえず、また生殖があるならば死も不可避であるからだ。もし死が存在せず、生殖のみがあったならば、命が増えすぎて、世界は秩序を保てない。新たな生命が増えるためには、死はなくてはならないのだ。




※沖田瑞穂著『怖い女 怪談、ホラー、都市伝説の女の神話学』(163-164頁、株式会社原書房、2018年)より引用



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