『フェイクドキュメンタリーの教科書』.txt

第3章 強烈なキャラクターを生み出す極意 ―白石晃士の演出論


【見出し】強烈なキャラクターを生み出せ!


 私の転換点となった作品を挙げるとすると『オカルト』になります。当時の私の全てを詰め込んだ作品であり、その後、私の作品の多くに出演してもらうことになる宇野祥平くんとはじめて仕事をした作品でもあります。『オカルト』のストーリー自体はかなり前から考えていて、主人公の“江野祥平”というキャラクターは、過去に宇野君が演じたあるキャラクター(後述します)に強い影響を受けつつ、私自身を重ねています。


【中略】


 映画の主人公として“江野祥平”は珍しい方のキャラクターだと思います。多くの場合、誰もが好感を持ち、共感できる主人公にしますが、彼はそういうタイプじゃない。例えばJホラーの場合だと、観客は主人公と同じ目線で恐怖を体験していくのが定番です。だけど、私はその枠組み自体が昔からあまり面白いと思っていなかった。海外のホラー映画を見ていると、アクの強いキャラクターがいっぱい出てきますから、日本のホラー映画でもそういうキャラクターをもっと出せばいいとずっと考えていました。そんな想いもあって、オカルトではあえてクセのあるキャラクターを主人公にしたんです。


 当時考えていたのは、主人公になり得ないような容貌と性格の人物が、徐々に受け入れられていく様子をリアルに描こうということです。最初は「うわっ、コイツ最悪だな」と感じた男が、彼の立場とか考え方を知ったときに「嫌い」とは言いにくくなるんじゃないかなと。人と人とが関わり合うってそういうことじゃないですかね? 最悪の不良が殺人事件の犯人であっても、彼と時間を共にしてみれば、面倒なところがあっても嫌いになりきれないと思うんです。詐欺師なんかは人間的に魅力がある人が多いそうですから、公の目で見て悪いとされる人間に好感を持ってしまうことはごくありふれたことであるはずです。


【後略】





※白石晃士『フェイクドキュメンタリーの教科書 リアリティのある“噓”を描く映画表現 その歴史と撮影テクニック』(78-81頁、誠文堂新光社、2016年)より引用。



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