第3話

 スライムさん達に魔力をあげ始めて5年が経った。この5年間で、色んなことがちょっとずつ変わっていった。

 例えば、私がこの世界に生まれた時からいるスライムさん達は全員厄災級に進化したり、スライムさん達の数が元の5倍くらいに増えたり、私の魔法への理解度が上がったり…そんな中で一番、5年前と変わったことはテンペストスライムのテンさんが進化して、喋れるようになったこと。

 種族はテンペストスライムから、『風の捕食者』になって、名前を教えてくれた。エルメルって言うらしい。


 そうやって、緩く生活してたら、エルメルさんから大切な話があるって、岩に下ろされた。

 久しぶりの地面は、なんだか変に感じた。慣れってやつかな。


「どうしたの?」


『実は、リノにお願いがあるの』


「お願い?」


 今までも何回かお願いされたけど、今回はかなり大切なものらしい。


『私達を眷属にして、リノに、私達の王になって欲しいの』


「眷属?どういうものなの?」


『眷属ってのはね、一生涯、双方が死なない限り結ばれる、絶対忠誠の契約なの』


「スライムさん達が眷属になると、何かあるの?」


『リノが死んだら私達も死ぬ事と、私達の考えがリノを中心に、第一になることかな?リノが死ねって言ったら死ぬくらい?』


「えぇ!?だ、ダメだよ!簡単にそんなもの、私なんかにやっちゃったら!」


『大丈夫。他のみんなに相談したもの。何回も確認した。簡単には言ってないわ』


「で、でも…」


『私達スライムにとって、王がいて、その人の眷属になることは何よりも大切で、何よりも嬉しいものなの』


「……ほ、本当に良いの?私、力強くないよ?」


『魔法があるし、私達がいるわ』


「王様みたいな事できないよ?威厳なんて、全然ないし…」


『大丈夫よ。私たちは、みんなリノを尊敬してるわ。それに、可愛らしい王様だって良いじゃない?』


「私、賢くないよ?」


『でも、その分優しいじゃない』


 どう言っても、『大丈夫』って返ってくる。本当に、私なんかで良いのかな?もっと、良い人がいるかもしれない、後悔するかもしれない。それに…皆んなの命を握るなんて…


『リノ。私達は、リノのことが大好きなの。明るくて優しくて、誰よりも可愛らしいリノのことが』


「私も、みんなの事大好きだよ」


『私達は、私達の命を、リノのために使いたいの。私達全員、リノに感謝してるし、尊敬してる。リノ以外に、考えられないの』


 じっと、エルメルは私の目を見る。無いはずなのに、目なんてないはずなのに、真っ直ぐ、私の瞳を見ているような気がする。その体全てが、目になり、口になり、手になり足になるスライムにとって、そのままの意味で、全身で私と向き合ってる。優しく否定された、『私なんか』とか、そんなこと言うのは、全身で向き合ってくれてるエルメルさんにとって、失礼な気がした。


「………わかった…私、皆んなの王になる」


 真っ直ぐエルメルさんを、そしてエルメルさんを通して、私なんかを…私を選んでくれた皆んなを見返して、静かにそう言った。

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